第3話 昼休み(津久葉 晴)
俺は知らなかった。あの人が俺と同じ学年だなんて。だってさ、見るからに先輩だろ。
*
「おい、
不意に俺を呼ぶ声がした。俺はその声が聞こえると、我に返った。
「あ、悪い悪い」
「やっぱり聞いてなかったか」
俺が謝ると、同じクラスの
俺たちは学校の昼休みのチャイムが鳴ると、売店に急いで昼飯を買いに行った。そして、朝に会った、あの人を待った。会ったというよりも俺が余所見をしていたせいでぶつかってしまったんだけどな。
あの人に昼飯を奢ると言ってしまった以上引き下がるわけにはいかない。そもそも、来てくれるだろうか。そんな事を考えていると、視界にあの人の姿が映った。
「おーい、こっちだ!」
俺は大きな声であの人を呼んだ。あ、しまった。敬語を使わずに呼んでしまった。ヤバい、殴られるかもしれない。
すぐにあの人はこっちに来た。黙っているという事は怒っているに違いない。
「あ、
隣にいる水瀬があの人を見て言った。
「え?」
水瀬の言葉に俺は思わず声が出た。
影野、さん? いや、呼び捨てってどういう事だ? 俺と同じ一年?
ゆっくりとあの人に視線を向ける。あの人は無言で俺を見続けてる。なんで、見てるんだよ! なんか喋ってくれよ!
「あ、えっと、取り敢えず、俺の後についてきて下さい」
結局、俺が声を掛けた。影野とかいう奴が同じ学年ということを知ったのにも関わらず、戸惑っていたせいで敬語になってしまった。
そうして、俺たちはその場を後にし、今の状況に至るというわけだ。
今現在、教室で俺たちは机を囲い、話しながら、昼食を食べている。話を聞く限り、連れてきた人物は
驚くことに、今まで気付かなかった。同じ一年だとは……俺は馬鹿か。
「おい、晴。聞けよ!」
「お、おう。で、何の話なんだ?」
再び俺を呼ぶ水瀬の声で我に返った。俺は問い掛けた。すると、呆れるように俺を見ている水瀬。次の言葉を待ったが、沈黙が流れている。
「影野、喋れよ!」
唐突の水瀬のツッコミに影野は反応する。俺は笑いそうになってしまうが、何とか耐えた。
「こんなに食べれない。奢ってもらって悪いが、返す」
「は? ちょっと、待てよ。全部返す事ないだろ。男ならこのくらい食べれるだろ!」
俺は影野とかいう奴の言葉に驚き、返された食べ物を突き返してやった。たかが、おにぎり二つとパン二つだ。食べれるだろ。おまけに飲み物も買ったんだぞ。それでも、影野は遠慮して受け取らない。
なんとか受け取って貰おうと、あるものを思い出す。
「あ、これだけは受け取ってくれ。これ、美味しいから」
そう言って影野に渡す。それは紙で包装されたパン。売店で人気の海老カツサンドだ。これがすごく美味しいんだよな。
「これは?」
不意に影野が問い掛けた。
「晴のオススメのパンだ。それ、好きらしいんだ。な?」
俺の代わりに水瀬が説明するように言ってくれた。
「おう! 是非、食べてくれよ」
俺がそう言うと、影野は紙で包装された海老カツサンドを出し、口にする。
なあ、美味いだろ?
「美味いな」
俺の心の問い掛けに答えるかのように呟く影野。
「だろ! へへへ」
「晴、にやにやしてきもい」
「海老カツサンドの美味しさを知らない水瀬は黙ってろ!」
「あー、はいはい」
軽く返事をする水瀬。いつか、こいつにも海老カツサンドの美味しさを分からせてやる。
こうして、俺たちの昼休みは終わった。
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