第2話 はじまり (影野 紫音)

「寒いね」

「そうだね。今日は寒いよね。でも、明日は暑くなりそうだよ。嫌だな」

 女子たちの会話が俺の耳に届いた。確かに今日は寒い。そう感じると、思わず身震いしてしまうほど寒気が襲ってくる。だが、まだ暑さは若干残っている。寒いのは朝の時間だけだ。

 俺はゆっくりと学校に向かっていた。


はる、遅いぞ!」

「んな、お前が早いんだろ! 待てって!」

 なにやら、今度は男子たちの会話が聞こえてきた。よく見ると、男子たちが追いかけっこでもするように走っていた。制服を見るあたり、俺と同じ高校のようだ。

 朝っぱらから元気だな。ふと、心の中でそんな言葉が零れた後、頬が緩んだ。

 ん? よく見ると男子たちはこっちに向かってきているようだ。

 おい、危ねえぞ。前を見ろ。前を……。

 その瞬間だった。


 俺は一人の男子とぶつかった。いや、腕にぶつかっただけなのだが、衝撃が強すぎて尻もちをついてしまった。


「あ、すみません。大丈夫ですか?」

 ぶつかってきた男子は俺に謝ると、手を差し伸べてきた。いや、そんな事されずとも一人で立ち上がれるというのに。手を差し伸べられたのを無視して俺は一人で立ち上がる。


「あの、お詫びに昼飯奢るんで、昼休みに売店の前の広場に来てください。じゃあ、」

「あ、待、」

 俺が呼び止めようとする前に男子は去ってしまった。突然の事で戸惑う。

 そんな事よりも俺が先輩に見えるのか? 先輩に見られたのは初めてだ。それに俺は話し掛けられる事が少ない。まあ、怖がられるって事だけは分かる。

 そういえば、アイツは確か……。確か、同じ学年の……。ダメだ、名前が思い出せない。

 どうせ、昼休みに会えるんだしいいか。そんな事を考えている場合じゃない。今、何時だ? 学校に遅れてしまう。

 俺は走らずに学校へと歩いた。走らないのは疲れるからだ。そのせいか、余裕なく、ギリギリで到着した。

____


 昼休み、アイツの言葉通りに売店の前の広場へと向かった。向かう途中、売店へと走り出す男子たちが何人かいた。俺のクラスメイトたちもいる。走るなんて危ないだろ。歩いて行けよ。

 そんな俺の気持ちとは裏腹に男子たちは駆けていく。

 そうして、漸く辿り着いた売店の前の広場。


 驚いた。売店の前には人集りが出来ていた。おそらく、売店で食べ物や飲み物を買った者、売店に入店するために並んでいる者たちがいるのだろう。

 その中で、俺に手を振って合図を送るアイツを見つけた。

「おーい、こっちだ!」

 さほど離れてもいない場所だと合図だけでいいはずなのに大声で呼ばれた。

 俺はアイツがいる場所へと移動した。

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