【6/6 7:57:02 北園紅蘭 残刻 DE:AT:H?】
胸に突き刺さった――否、北園が自らに突き立てた刃は、彼の倒れた周囲を一面赤に染め上げている。
血が赤色の池を作っていた。
動かない。
動かない。
倒れた侭、動く気配がない。
(こんな事になってしまうのなら……いっそ私が、あのまま先に……)
――――あのまま先に私が爆死するべきだったんだ。
そんな後悔に打ちひしがれて四肢を地に付けながら
「きゃはきゃはっ! いきなりひかりもんだしたかとおもってみがまえちゃったけど、ふたをあけたらじめつとかちょううけるんですけど! ねぇふるるちゃん?」
「きゃはきゃはっ! おいつめられたけっかがじがいとかって、そのてんものわかりがほんのちょびっとばかりよかったのかもしれないよね! ねぇほろろちゃん?」
死体を見下ろしながらはしゃぐその姿は、つまりは彼と彼女が子供であり、善悪の判断がつかない位には成熟しきっていないという、そら恐ろしい残酷さを物語っていた。
が、しかし。
かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……。
音が、鳴っていた。
時計の歯車がこすり合わさるような音が、どこからともなく鳴っていることに回理子は気がついた。
その音は対峙する双子にも同様に聞こえていたらしく、発生源がうまく特定できないのか二人が二人ともあたりをきょろきょろと見回す。
(えっ……!?)
回理子は、ここである事実に気がつく。
回理子と高低兄妹のちょうど真ん中に位置する、北園の遺体に異変が起きていることに、気がついてしまう。
出血多量による
かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……。
かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……。
固有能力【ファントムホール】の開閉により亜空切断された、北園の右と左の掌。
打ち捨てられるが如く転がっていたそれらが、まるでビデオテープを巻き戻すかのように血液と共に北園の手首へと繋がる一連の流れに、彼女の目線は釘付けになってしまっていた。
視線を一直線に固定する回理子の先を追って、ようやっと高低ふるると高低ほろろも、眼下で繰り広げられている異常事態を視認出来たからだろうか。
無邪気な兄妹といえども、ふざけ合うのを中断し息をのまざるを得なかった。
かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……。
かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……。
かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……かちゃっ……かちゃかちゃっ…………かちゃっ……かちゃかちゃっ……。
広がる赤色が無くなり、離れた掌が吸い付く様にして手首がくっ付き、むくりと立ち上がり背筋を伸ばした所で、彼の胸に刺さっていたはずのナイフがキィンと音を立てて落ちる。
傷穴は
引きつった表情を雨なのか汗なのかで
「せっ……せっ……せえぇぇぇぇぇぇぇえええふっ!!」
―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―
「――ッ! ふっ、ふるるちゃん! かっ……からだにひびがはいってる!」
誰の目からしても、もはや死亡したとしか判断せざるをえなかった北園が立ち上がった直後、
見れば高低ふるるの全身に亀裂が走り、
「えっえっえっ? なんで! なんで!! なんでぼくが!?!?」
自らの異変に驚きと戸惑いを隠せない子供の慌てふためく様を、北園は両腕を組んだ格好でぞんざいに見下している。
「ふむ。どうやら今の我には
「ここまで追いかけて来たのも、あくまで童の気まぐれかあるいはちょっとした
北園の言葉を真とすれば、どうやら制限時間もリセットされている様子であった。
そんな精神的優位を取り戻したのか、完全にパニックに陥っているかつての同盟員だった内の一人に向かって、北園はなおも語りかける。
「それが。折角、せっかくだ。
「さてと、さりとて貴様の時間も残されていなさそうだし、話を戻そう。両手首をブッ飛ばされてこのまま放置していれば出血多量で生命活動が止まってしまうと、
「そこで、仕方ないから、ちょっくら自殺してみたんだよ。てっきりそのあっま爆死すると思ったのだがな、どういう訳だか爆死はせずに普通に死んだ。よもやこれは一種の賭けであったな、うん。敗退を目前とした際に浮かんだ
目まぐるしく状況が変化する最中、戦力外且つ傍観者の立ち位置にいた回理子は、北園が言わんとしている意味を、風邪による熱で正常に働いていないながらも考える。
(死の定義って、要はどう死ぬかってこと?)
対戦規則について、思い出す。
一.対象A(鬼)となったものは72時間以内に対象B(他プレイヤー)に触れなければならない/制限時間がなくなると対象Aは爆死する
二.鬼が他プレイヤーに触れた後、接触後17分間対象C(鬼に触れられた他プレイヤー)から触れ返されなければ、対象Cは爆死する
八.処刑者(プレイヤーとは異なる存在)に補足され、殺害されると爆死はしないが敗退となる
(全て爆死だけど……って、あ……!)
敗退するということイコール死に繋がる、自身が参加しているこのゲームにおいて自殺に関する定義は存在しない。
「単純に我は死という概念は知っていたつもりでも、自身の体験として自ら経験したことは未だなかったからなぁ。いやぁ~とっても怖かった。図らずとも失禁しかけるぐらいには、恐怖でしかなかった。でもなぁアレだぞ? 自らが暴力行為を加えていないのに処刑者以外の存在が他プレイヤーをゲーム続行不可な程に攻撃することは、果たして良しとされるのだろうな?」
(処刑者以外のプレイヤーが、他のプレイヤーに対しての命に関わる暴力行為を禁止とするならば。この現状はその
高低兄妹が違反行為により爆死しかかっているこの状況。
北園は死ななかった。
否、仮に死んでいたとしても今こうして立っているこの現実が導き出す答えは。
「かつて貴様らは我の能力について尋ねた事があったことだろう。遅まきながら解答を回答として示してやろう。曰く、我の固有能力は【ムーンフォール】という。肝となる能力の概要だがな――」
死の無効化だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます