第2話:少年は太陽に灼かれる

【4/25 9:45:00 南波樹矢 残刻 --:--:--】

 退布たいふ高校付属中学校3-Cクラスルーム内にて、南波みなみ樹矢たつやは周りを気にしながら、再びスマートフォンに視線を向ける。



 先日より事前告知も何も無くインストールされていたアプリケーション【BomBmaP】に今朝方、お知らせとめい打つ情報更新が為されていた。



 URLを踏み、【BomBTuBe】というサイトに飛ぶ。【最近のハイライト】というタイトルを押すと、沙羅さらふとしの逃げる・そして追う様から決着がつくまでの一部始終を記録した動画がページに埋め込まれていた。



 当然ながら、樹矢はその両者を知らない。全くの赤の他人である。



 だが知らないながらも、ビルからビルの間を飛んでは跳ねる沙羅の姿は、正に圧巻の一言だった。およそ人間には見えない、別の生命体いきものを連想させるような躍動感を持つ身体能力を存分に発揮する様が見てとれた。



 思わず動画を繰り返し再生リピートしてしまうぐらいには、見とれていた。



 そして、鬼である太が時間切れとなり、爆発する模様も収められている。一見して、爆発した後に周りの階段なり壁なりは崩れているようには見えない。むしろこれは爆発というよりかは、消失に近いのだろうか。



 確証は持てないものの、爆発に関しては他の物体に対して不干渉である可能性が高い気がしてならない。



ここで改めて、樹矢はアプリ内にある【対戦規則】のらんを確認することにした。



 一.対象A(鬼)となったものは72時間以内に対象B(他プレイヤー)に触れなければならない/制限時間がなくなると対象Aは爆死する


 二.鬼が他プレイヤーに触れた後、接触後17分間対象C(鬼に触れられた他プレイヤー)から触れ返されなければ、対象Cは爆死する


 三.鬼が他プレイヤーに触れた後、接触後17分以内に鬼に触れられた他プレイヤーから触れ返されてしまうと、鬼の制限時間は接触直前の残存時間の1/2へと減少し、カウントが再始動する


 四.鬼はアプリ上で他プレイヤーの現在地を常時確認できる/他プレイヤーは鬼が半径300M以内に侵入した際、通知のみを受け取る事が出来る


 五.



 いつつめの項目が空白くうはくである点に着目するならば、未だ明らかになっていない規則ルールが存在することをほのめかしている、のか?



 そもそもアプリが突如インストールされた際は、【BomBTuBe】は機能としてまだ存在していなかったし、随時拡充リアルアップデートされているのは明らかである。



 とはいえ、今の樹矢にとって最も重要な、懸念けねんするべき項目は第四項であった。



 通学し、正門を潜り抜けた際、鬼からの射程距離に侵入したと通知が来たからだ。それはもう唐突に、なんの前触れもなく。



 テレビの画面上部に流れる緊急災害テロップを思わせる程度には、樹矢自身、実感が湧かなかった。



 ゲーム内における樹矢の役割は現在対象B(他プレイヤー)となる為、鬼こと対象Aの正確な位置は把握できない。


 

 マップ上が全体的に赤色にグラデーション化していることから、恐らくではあるがまだ圏内にいるのだろう。



 どこにいるのだろうか、と考えた所でわからない。わからないし、時計は午前10時を指すと同時に2限目の開始を告げるチャイムが鳴った事もあり、スマートフォンを内胸ポケットにしまいつつ、一旦は考える事を放棄した。



 彼はそこまで深刻に事態を考えておらず、ゲーム開始時からずっと望んでいる別の事象があったのだが、それも含めて思考を停止する。



 何故なら授業が始まってしまうから。遅れを取るわけには行かないから。そのあたり、受験生という自覚は十分過ぎる程には持っていたのだ。




 その後、ものの5分足らずでボムみに憑依されるおににさわられる未来などを、よもや想定するわけもなく。

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