【4/21 14:14:57 西乃沙羅 残刻 71:49:37】

 なんとはなしに、視界にふわふわと漂う存在があったのは気付いていた。気付いていたのだが、それは余りに露骨ろこつ過ぎたのでスルーというか、無視を決め込んでいたせつがある。



 そんな沙羅さら思惑おもわくおもんぱかる素振りは全く見せず、目の前の少女の見た目をした自爆霊なにかはしきりにしゃべり続けていた。



『ご機嫌きげんうるわしゅう長身のでっかいおねえちゃん! 早速だけどカウント始まっちゃってるし手短てみじかにいっくよー! あっ、ワタシったら手ぇ無かったわギャハハハ!!』



 白い三角頭巾さんかくずきんに白装束装束で立ち。言われてみれば確かにそでが長すぎるのか、手の部分がかくれて布がだらんとれ下がっている。加えて彼女の腰から下は存在している様には見えない。



「あー。盛り上がってる所悪いのだけど、ひとつ聞いてもいいか?」



『ゎーぉ! 自らの常識じょうしき範囲内はんいないでは想定外そうていがいであるに違いないワタシに対して意思の疎通そつうこころみてるワケかな? ビューリホゥ! エクセレンツ!! ザーッツォオオル!!! いいよいいよ聞いちゃって、ひとつと言わずに今なら特別に126,620,000個まで答えてあげちゃうよぅ!!』



「ならお言葉にあまえて水増しで3つ聞こうか。あんたは何者だ。なぜ浮いている。でもってあんたが言うちょっとしたゲームって何」



 無駄にテンションが高い事と、国内の確定人口数分の問いかけを容認ようにんしたボムみには反応せず、思いついたままの疑問を沙羅は質問として投げかけた。



『いっこづつ答えるよ。二度目になるけど改めて自己紹介しちゃいます、ワタシは自爆霊じばくれい穂”無実ボムみちゃんだよ! よく間違えられるんだけど自縛ホールドじゃなくて自爆バースト爆弾ボムの方ね! ボンバーマンでお馴染なじみのボムだよ!』

 


 なるほどわからんと。沙羅は今一度思案しあんした。ついに自分は気がれてしまったのだろうかと、真面目まじめに悩む。悩んだ所で目の前の正体不明ボムみは一向に消え失せる気配がない。



 うん。認めたくないがどうやら現実らしい。と、沙羅は一旦折り合いをつけつつも相槌あいづちを打つ。



『続いてにこめ! なぜ浮いているかって? そりゃーワタシがれいだからだよ! 霊なのに浮いてないとかエアプもはなはだしい、浮くからこそ霊であるといっても過言かごんはないね』



 その見るからに一昔前のステレオタイプな風貌ふうぼうはやはり幽霊であるらしかった。



 分かり易過ぎるので敢えて聞かない選択肢せんたくしもあるにはあったが、一応念の為聞いておいて良かった気がする。とはいえ、現時点にて不明点が多すぎる為、ともすればその必要はないのかもしれない。



『そしてさんこめ! こっから割と重要だからちゃんと聞いて理解りかいしてね! あのねあのね、詳細しょうさいをつまびらかには教えれないんで申し訳ないんだけど、おねえちゃんはこの先十年以内にそれはもうド偉い大罪たいざいおかしちゃうんだ。』



『でね? おねえちゃんと同じような未来大犯罪者達ふつごうなひとたちがあと10人くらいいてね? この国の将来と天秤てんびんけて全員を全員とも問答無用まったなしキルっちゃった方がいいんだろうけど、せめてもの情けでふるいにかけてなんとか一人だけは生かしてやろうってな温情おんじょうの下、生存権をけたゲームに参加してもらう事に決定しちゃいました!!』



「だからそのゲームって具体的ぐたいてきに何よ」



あわてずさわがず落ち着いて? ASO! はいエーエスオー!! まずはお手持ちのスマートフォンにご注目!』



 自称を自爆霊とし一人称に愛称としてちゃんをつけるボムみが言い放つとほぼ同時に、沙羅の所有するスマートフォンが音を立てる。手に取りディスプレイに目をやると、そこには新しいアプリケーションのインストールを知らせる通知が来ていた。



『タイムリミットである72時間以内に、そのアプリを使って他のプレイヤーにまずは接触せっしょくをはかってみて! 接触――文字通り相手の身体に触れるって意味ね。んでもって、そいつらのいずれかに触れてから17分以内に触れ返されなかったらおねえちゃんの勝利! もし再び触り返されちゃったら、その時は触る前からやり直し! 更にさらに制限時間が半分でのリスタートになっちゃうよ! でねー。もしも制限時間以内に目標が達成出来ず残り時間が無くなっちゃうと』



「爆死すんだろ、どうせ」



『にゅあぁあ! 駄目だよおねえちゃん! そこ一番ワタシが言いたかった箇所ポイントなんだから!!』



「自己紹介の時点で爆を強調しすぎな。さっしの悪いガキでも察するわ」



 わめきき散らすボムみを脇目わきめに、スマホをいじる。



 アプリケーション名【BomB!maP】



トップには沙羅の家を基点きてんとした周辺の地図が表示されている。左上には赤字で制限時間を示すタイマーが見える。画面中央のオレンジ色の丸いアイコンは恐らく沙羅の現在地を指しているのだろう。他に点々と散らばっている青色のアイコンが、他のプレイヤーになるのだろうか。



「あれだな、意外と距離って離れていないんだな。この辺とか、すぐ近くの学校みたいだし」



『おっ、良い着眼点ちゃくがんてんだね! つーことは早速乗り込む? 突っ込んじゃう?? ブチアゲ・カチコミ・タイムに突入しちゃうぅぅうう???』



「いや、やめとく」



『へ?どーして?』



「なんてゆーか。眠いの、非常に眠いの。おねえさんは失恋のショックでしばらくく立ち直れそうにありません。なのでちょっと眠りたいのです」



『……は?』



 終始しゅうしハイテンションだったボムみの表情から笑顔が消えた。日常生活では起こり得ないこの異常事態をうながしたにも関わらず、何のつもりだといぶかしむ。



 あと3日以内で死ぬかもしれないというのに、眼前の女はこうも余裕なのか。どうしてそそくさと毛布を被って睡眠体制に入ろうとしているのか。



『え? おねえちゃん? 本当に今置かれている現状、分かってる? 夢とかじゃないんだよ??』



「わかってるよ。でもな、あたしは今本当に全力で形振なりふり構わず眠たいの。頭がえない状況だとな、何をやっても上手くいかないんだわ。それにまだ時間的には猶予ゆうよもあるんだろう? じたばたしたって仕様が無いだろう。つーことで、おやすみ」



 言って沙羅はものの数10秒もたずして寝息を立て始めた。結果的には、その後ボムみがいくらさわごうが、依然いぜんとして丸々50時間以上目覚めることはなかった。



 霊体であるがゆえに物理的な干渉かんしょうが出来ず、いくら呼びかけても無駄だとわかり、30分後にようやくボムみはさじを投げた。



 投げる腕は無かったし、投げ出す両脚も有していなかったのだが。



『参ったな。この図太さは尊敬にすら値しちゃうね。大罪ランク2位は伊達だてじゃない。まぁいいや、そのうちいやおうでも動かなきゃならないんだ。まずはお手並み拝見はいけんといこうじゃない』



 言い残し、音も無く消える。



 残された部屋では、成人済み女性一人とその飼い犬である一匹が身を寄せて眠り続けていた。

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