第3話 異世界に召喚された。

 意識が急速に鮮明になる。

 何だ?何が起こった?寝てるのか?

 混乱の中で妙に辺りが騒がしいことに気がつく。


「やった!成功だ!」

「伝承は真のものであったか…」などなど


(声の感じからするとクラスの奴らはまだ起きてないのか?)


 体勢的には寝てるんだろうけど、寝てる場所は石っぽい、硬いし。冷たいし。


(ここはどこだ?あいつら誰だ?)


 こっそり薄目を開けてみると明らかに日本人ではない者たちが騒いでいる。

 さっきの声の主はこいつらだろうな。

 でもどう見ても日本語を話すようには見えないし、注意して見ると口の動きも違う。

 だが、日本語のように聞こえる。

 どういう事だ?

 そんな事を考えていると


「……ここは?おい!みんな大丈夫か!?」


 そんな声が聞こえた。この声は神代だな。

 その呼び掛けを皮切りに他の奴らも起き始めたようだ。俺は誰かに起こされるまで狸寝入りしていよう。



 狸寝入りする事数分、ようやく俺の体を揺さぶって起こそうとしてくれる人がいた。

 良かった。周りの奴ら、殆ど起きてんのに

 俺だけ起こされないかと思った…


「黒川、おい黒川大丈夫か?」


 この声は……松富先生か。


「んぅ……んん?」


 俺はわざとらしく唸るとたった今起きたという風に体を起こす。


「…せん、せい?ここは?それにアイツらは?」

「落ち着け、大丈夫だ。ここが何処なのかは分からん、だが向こうはこちらを害する気は無いようだ。」

 

 どうやら元々起きてたことは気づかれて無いようだ。良かったぁ。

 一安心したので、改めて周囲を確認する。

 円形の床は予想通り石畳、壁は大理石…かな?緩やかにカーブを描いているので床に沿って作られているのが分かる。あ、扉がある木…かな?天井はドーム状、一部窓になっている所がある。そこから漏れ出る光の寮で察するに恐らく時間は夜。

 一通り置かれた状況を把握すると、次は周りを取り囲んでいるヤツらの観察。

 どう見ても日本人ではない事はさておき、

 結構色んな人種が入り交じっているように見える。……うん、それだけだな。強いて言えばゲルマン系の人が多い。


「悠介!」「黒川くん!」


 お、孝太も萩野さんも起きてたのか、良かった元気そうだな。


「よぉ、二人とも無事で何より。」

「そりゃこっちのセリフだよ!いつまで経っても起きねぇから何かあったのかと…」


 どうやら本気で心配をかけたようだ。

 なんか申し訳ないな……。


「悪かったな、心配かけたみたいで。」


 そう言うと孝太はニカッと笑い


「まぁ無事ならいいんだよ」


 と言ってくる。

 しばらく先生、萩野さん、孝太と現状について話し合っていると扉が開き、そこから数人が入ってくる。その中の一人、明らかに着ているものの質が違う、どう見ても人物だと分かるゲルマン系でドレスに身を包んだ女性が一歩前へ出てくる。


初めまして。わたくしはノルゼーア帝国皇帝ゼードルフ・フォン・ハンス・ノルゼーアが第二皇女アレクシア・エリザーベト・ルイーゼ・ノルゼーアと申します。」


 そう言って丁寧なお辞儀をする第二皇女。

 しかし、なんだ。……名前クソ長いな。


「なぁおい、悠介、あのお姫様めっちゃ胸デカイな」


 コイツは……まぁ分かるけどさ。萩野さん

 めっちゃこっち睨んでるよ?


「こうくん?」「ヒェッ」


 あーあ。しーらね。

 俺は気を取り直して第二皇女の観察を始める。

 見た目は完全にお姫様って感じだな。孝太言っていた通りスタイルはいい。しかし、上手いな、あのお姫様。仮面かよ。

 あと何だろう、纏う雰囲気が親父しゃちくにとても似てる。

 お、目ぇ合った。……何か微笑まれたんだが。

 俄に騒がしくなる周囲。


「今俺に笑いかけなかった!?」

「いや、お前なわけねぇだろ、俺だよ。」

「いーや!俺だね!」

 

 バカだなーこいつら。

 しかし、あの微笑みは親愛の笑みじゃなくて笑みだったな。

 やがて第二皇女がまた口を開く。


「皆様、落ち着いてくださいませ。突然の事で混乱される方もいらっしゃるかと思いますが説明はまず、部屋を移して行います。どうぞ、こちらへ。」


 そう言うと、周りの取り巻きたちが二手にわかれ道を作る。その内の一人、常に第二皇女の後ろにいた執事服を着た初老の男性が


「こちらです。」


 と促してくる。

 クラスの中からは戸惑いの空気が流れる。そりゃそうなるわな。

 そんな中、声を上げるものが一人。


「みんな!とりあえずあの人たちに従おう。まずは状況を把握しないといけない。」


 そう言いつつ颯爽と歩き始める。

 お察しの通り神代である。

 生徒たちは周囲を見て頷き合うと神代を先頭としてこの部屋から出ていく。

 俺は最後に出よう、と考えているうちに残っているのは俺、孝太、萩野さん、松富先生のみとなる

 すると松富先生が歩き始めながら


「三人とも行くぞ?」

 

 と声をかけてくるのでその背中について行く。

 松富先生かっけぇな。

 孝太と萩野さんが先生について行き、俺はその後ろにつく。

 第二皇女はまだ居る。あれ、第二皇女は残るのか?と思いきや最後尾の俺の後についてくる。

 最後尾選ばない方が良かったかもしれん……

 逃げ場無いじゃねぇか。クソが。

 現実逃避に目をそらすとが目に入る。

 ──電灯だ。正確には電灯のようなものだが、柔らかな光を発しているのは電球のそれだ。

 改めてよく見るとこの通路、かなりの技術で造られている。電球のようなものもそうだが、床のカーペット、壁の細工、どれを見ても手作業で作ったとは思えない。

 なんなら壁には写真が飾ってある。

 え?ここ異世界だよね?わりと技術発展してね?

 俺がプチ混乱を起こしていると前を歩いていたヤツらが豪奢な扉の前で止まっていた。

 何してんのこいつら。

 すると俺の背後にいた第二皇女が前へ歩いて行き先頭に立ち


「今から、皇帝陛下よりお言葉を賜ります。くれぐれも失礼のないよう。」


 と忠告をしてくる。

 その直後、扉が開いた。

 どうやら謁見の間的な所らしい。階段の上にでかい椅子あるし

 第二皇女が進み始めたので俺達もそれに続く。

 中はThe・謁見の間のような光景だった。

 しばらく進むと、階段の手前で第二皇女が止まり跪く。

 俺たちもそれにならおうとするが第二皇女が目で制す。

 すると謁見の間の右の方にあった扉が開き、豪奢な服に身を包んだ壮年の男性が歩いてくる。

 服の上からでも分かるほど鍛え抜かれた肉体に思わず目を逸らしたくなるような眼光、どう見てもあれが皇帝だ。


「アレクシア、これで全員か」

「はい、皇帝陛下。」

「そうか…」


 皇帝は第二皇女との会話を終えるとこちらへ視線を向ける。


「ようこそ、異界の勇者諸君。俺がノルゼーア帝国皇帝ゼードルフ・フォン・ハンス・ノルゼーアだ。君達には良い働きを期待している。」

 

 そう言うと皇帝は立ち上がり去って行った。

 え?それだけ?と思うも、まぁ皇帝だしね、と無理やり納得した。

 すると第二皇女がこちらへ目を向けながら。


「皆様、天職の確認と説明を行います、こちらへ。」


 とまた別の部屋へ俺たちを促す。

 次に俺たちが連れてこられた部屋は儀式の間のような部屋だった。


「皆様にはここでの確認をして頂きます。」


 第二皇女がそう言うと彼女の背後からカードのようなものが乗ったお盆と何かの器具を持ったメイドさんが前に出てくる。

 第二皇女はカードを手に取りながら説明を始める。


「これは【ステータスカード】と呼ばれるものです。記録したステータスをいつでも見ることができます。」


 次に器具を示しながら解説をする。


「こちらは皆様のステータスを確認する為の器具です。これ確認したステータスをカードに記録することができます。では早速──」

「待ってください!まだ俺たちがなぜここにいるのかの説明もされてません!」


 第二皇女の説明を遮り神代が声を上げる。

 周りの生徒もそれに便乗し始める。


「そうだ!説明しろ!」

「そうよ!ここはどこなの!?」


 その糾弾のような声に第二皇女は


「そうですね、まずは皆様を召喚した理由を説明しなければ。」


 と呟き俺たちを召喚した理由を話し始めた。

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