異世界で就職
第2話 何気ない日常だった光景
チャイムが鳴り授業が終わる。昼休みだ。
俺──黒川悠介は鞄から
「お前、いつもそればっかだな」
茶髪の細身で背が高い男子生徒がそう言いつつ近づいてきた。数少ない友人である
「うっさいわ、そういうお前はいつもの
コンビニ弁当はどうしたんだよ」
孝太は「ニヒッ」と気持ち悪い笑い声をあげ、
自慢するように持っている弁当袋を掲げる。
「これ?これは
江美─
「は?手作り?萩野さんの?」
「そう、手作り、朝渡されてさ」
マジか彼女の手作り弁当とか都市伝説だと思ってたわ。
「お前愛されてんなぁ、相変わらず。」
「だろ?これ渡される時の江美の顔がまた可愛くてな」
ナチュラルに惚気けるのやめろ。
そんなことを言い合っているとダークブラウンの髪を肩まで伸ばした大人しそうな女子生徒、件の萩野さんが弁当を持って近づいてくる。
「こうくん、ごめんね?先生のお手伝いしてたら遅くなっちゃった。」
そう言うと萩野さんは弁当を鞄から取り出し机の上に置くと、美味しそうに弁当を頬張る孝太を眺め始める。いや、弁当食えよ
「美味しい?こうくん」
「あぁ最高に美味い、さすが江美だ」
その返答に萩野さんはエヘへと笑うと自分の弁当を食べ始める。
「そういえばよ、悠介。お前、榊原さんとはどうなんだ?」
唐突に孝太がそう聞いてくる。
「あ?何の話だよ。」
「だってお前、あの榊原さんと幼馴染なんだろ?幼馴染同士が同じ高校に居るとか何か無いとおかしいだろ。」
榊原──
その榊原と俺は幼馴染、と言っても子供の頃の話で、たまに会話はするもののそれだけで別に恋愛感情を抱いたりはしない。
「何もねぇよ。何を期待してるんだお前は。」
「んー、でも火のないところに煙は立たないって言うだろ?」
「ダメだよ、こうくんはすぐそういうこと言うんだから、変な勘ぐりは良くないよ?」
萩野さんは孝太をそう諌めながらも何かを期待するようにチラチラとこっち見てくる。
いや、だから何も無いってば。
そんな二人を無視して、最後の一欠片を
口に放り込むと鞄からパソコンを取り出し、昨日頼まれていた仕事を仕上げ始める。
そんな俺を見て二人は呆気にとられた顔をして、次の瞬間には焦った様子でまくし立ててくる。
「ちょ!?悠介なにしてんの!?」
「そうだよ!黒川くん!早くしまって!」
突然、そう言われポカンとするもののすぐに二人の言いたいことを察する。
「ん?あぁ大丈夫だ。これ、学校の備品だから」
「いや余計マズくね!?」
そうだろうか?孝太は心配症だなぁ。
「大丈夫だって、ちゃんと許可も取ってある」
そう安心させるように言うと孝太が聞いてくる。
「まぁ許可取ってるなら…てか何で?」
まぁそうなるよね。
「昨日、
そう説明すると、孝太は呆れたようにぼやく。
「
「まぁ松富先生だしな」
そう言いつつ書類を完成させUSBメモリにデータをコピーしているとそこに、黒髪を腰まで伸ばした女子生徒が近づいてくる。
先程話していた榊原優香である。
「黒川くん、何をしているの?いくらこの学校の校則が緩いと言ってもそれは無いんじゃない?」
近づいてきたと思ったら徐ろにそう言われた。
「これは学校の備品だ。先生に頼まれたんだよ」
と端的に説明する。
「あら、そうなの。それにしても黒川くん、もっとまともな昼食は無いの?あんなのじゃきちんと栄養取れないでしょう?」
仕事についてはスルーされた。
「は?あれはバランス健康栄養食品だぜ?体に悪いわけないだろ」
向こうも反論をしてくる。
「そういう問題じゃないでしょう?だいたいタンパク質が無いじゃない」
その返答は予想してた。
「タンパク質は適当にプロテイン飲んでりゃ何とかなるんだよ」
知らんけど。
榊原は頭痛をこらえるように頭に手を当てると呆れたようにため息をつく。
「はぁ…そんなんだからいつまで経っても
そんなモヤシみたいな貧相な体のままなのよまぁ昔からあなたは私より背が低かったけど」
「ぐぅ!」
そうなのである、俺は榊原よりも頭一つ分背が低い、なんであいつ身長172cmもあるんだよ……おかしいだろ……
そんなやり取りをしていると隣の孝太と萩野さんがヒソヒソ話し始める。
「あの二人これで付き合ってないの?」
と萩野さん。
「だから言ったろ?火のないところに煙は立たないってたまにこんなやり取りしてるからそんな噂が流れるのも仕方ないんだって」
「でもこうくん、榊原さんは確か……」
と孝太と荻野さん。
だからさぁ──
「おい、何度も言ってるだろ俺とコイツはそんな関係じゃないってば、だいたいコイツは…」
そんな話をしていると一人の男子生徒が近づいてくる。そら、来たぞ。
「優香、こんな所に居たのか」
そう言いつつ爽やかな笑みを浮かべるコイツは
さっき荻野さんが言いかけていたのはコイツと榊原が恋人同士だという噂だ。
てかもうほぼ確定みたいなものだと思われている。そりゃそうだろう、榊原みたいな美少女と神代のようなイケメンがお似合いと言わずして何というのだ。
しかし、俺はこいつが嫌いだ。嫉妬じゃないよ?イケメンだからじゃないよ?本当だよ?
「黒川、お前また優香に迷惑かけてるのか、いい加減学習したらどうだ?優香だって好きでお前にかまってる訳じゃないんだぞ?」
こんな風に俺と榊原が話しているといつも絡んで来て難癖をつけてくるのだ。
全て責任は俺にあるかのように。
「いや、俺普通に飯食って作業してただけなんだけど…」
「優香が意味もなく話しかける訳ないだろう
てことはお前に問題があるんだ。」
こいつ頭イカれてんの?
神代の言葉にイライラを募らせていると、教室の扉が開き白衣を着た長身の女性が入ってくる。
「黒川、居るか?」
ナイスタイミングだ。先生。
「あー先生。頼まれてたもの終わってますよ」
俺がそう言うと先生──松富静先生はパッと花が咲くように笑って、ズンズンと近づいてくる。
そしてグイッと手を差し出してくる。
「はい、どうぞ」
そう言いつつ手の上にUSBメモリを乗せると先生はニコニコと笑う。
「ありがとう、助かるよ。毎回すまないね今度一緒に豚骨ラーメンでも食いに行こうじゃないか。」
飯の内容が男前すぎる…
この人黙ってれば美人なのになぁ。
「本気でそう思ってるなら、もう頼むのやめてくれませんかね?」
「フフっ」
先生は心底おかしそうに笑う。
いや、フフっじゃなくてさ
いつもの会話だった、この後はまた神代の
めんどくさい話が始まり、榊原が諌め、
先生がまた面倒な頼み事をしてくる。
孝太と萩野さんのイチャイチャを見せられる、そう思っていた。
────クラス全員の足下に光り輝く魔法陣のようなモノが出現するまでは。
「!!なんだ!?」
「これは!?来たんとちゃいますか!?
来たんとちゃいますか!?」
「なによこれ!?」
クラスが騒然とし始める。純粋に驚く者、何かを期待するように叫ぶ者、恐怖に悲鳴をあげる者、様々だ。
神代が声を上げる。
「みんな!教室の外へ!」
全員が動きはじめた瞬間、足下の魔法陣は
急激に光を強め、俺たちの視界を白一色に染め上げる。その直後俺達は、意識を失った。
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