小暮静久は帰りたくない!
Q.彼女からマゾだと告げられました。どうすればいいでしょう?
先生からそう告げられた翌日。私は人生最大の問題に頭を抱えていた。薄々変態っぽいと思っていた先生が、本当に変態だった。しかも、面と向かってマゾだと告白され、苛められると興奮するとまで言われてしまった。
「珍しいな。小暮が悩んでるなんて」
「橋本。ねぇ、橋本、マゾの気持ちってわかる?」
「おい、ホントに大丈夫か? 頭打ったって、そんなこと言うやつじゃねぇだろ」
家がお隣で、親同士の仲が良く、幼いころから顔見知りだった、所謂、幼馴染である橋本誠。学校で私と親しい数少ない友人だけど、女癖の悪いクソ野郎だったりする。そんなクソ野郎ではあるけど、扱い方さえ間違わなければ、使える人間なのだ。
「いいから答えて」
「マゾ、マゾねぇ……そりゃ、マゾって一言で言ってもいろんなタイプがいるわけだし、一概には言えねぇけど、お前が付き合えるタイプじゃねぇな、さっさと別れろ、ひぃっ!」
はぁ? 先生と別れろ?
「どういうことか説明してくれる?」
「お、おおおおお、お前な! ここ学校だぞ!」
「いいから答えて」
「待て! 分かった、分かったら、ちょっと落ち着け!」
私はこれ以上なく落ち着いてる。クソ野郎と思ってたけど、私と先生を別れさせようとする程のクソ野郎を更生させるのは何も間違っていない。
「いいかよく聞けよ! マゾだろうがサドだろうが、それは相手がいる前提の話だろう! それが強ければ強いほど、相手に執着してるってことだろうが! つまり、他人に関心の薄いお前とは相性の悪いタイプだってことだよ! よーし、納得したな? いいか、くれぐれも、俺の個人情報をばら撒くとかやめろよ! おおっと、物理的にダメージを与えるのもNGだ!」
クソ野郎が何かを言っているけど、興味のない私はそれをあっさり無視して、橋本に言われた言葉を反芻していた。相性が悪い、そう言われればそうなのかもしれない。何かにつけて貢ごうとしてくる先生が、私に執着しているのは確かだし、それでも私が不快な思いをしていないのは、私が先生を好きだということもあるけど、それ以上に、先生が距離間に気を使ってくれてるおかげだと思う。
「静久ちゃん、静久ちゃん?」
「―――んっ、なに?」
「ううん、なんだか、ぼーっとしてたから」
考え込んでいるうちに、先生の家についていて、気が付けば食卓の前だった。なんだか、そわそわしている先生に視線を向けた。
「静久ちゃん……やっぱり、男の子の方がいい?」
「――は? え、なんでそうなるの?」
「だって、橋本君と仲良さそうだし、なんだか悩んでいるみたいだったから……」
「いや、違う、違うからね! 私が悩んでたのは!」
「悩んでたのは?」
嵌められた、と思ったときにはもう遅く、真剣な表情で私を見つめる先生に、言葉を詰まらせるも、もう腹を割って話そうと覚悟を決めた。
「悩んでたのは、先生の性癖についていけないなって思ってたの」
「そ、それって、昨日の……?」
「あぁ、でも、勘違いしないでね。別れたいとかそういうんじゃなくて、むしろ、その、別れたくないから悩んでるだけで」
先生をからかうのは楽しいけど、私にできるのはせいぜいそのくらい。先生を虐めて愉しむような性癖はもてそうにない。でも、距離感に気を使ってもらって、もてなしてもらっている身としては、これ以上、先生に気を使ってほしくない。
「先生さ、まじめな話してるのに、なんでにやにやしてるの?」
「だって、静久ちゃんが私と別れたくなくて悩んでるなんて、愛されてるってこでしょ? そう思ったらつい、にゅへへへぇ……」
「だから、その気持ち悪い笑い方ヤメテってば……」
絶対に赤くなっている顔を見られたくなくて、バカみたいに幸せそうな先生から視線を外して俯いた。何かにつけて貢ぎたがったりする先生に、どれだけ私のこと好きなの?なんて思っていたことが、ブーメランみたいに、私に帰ってきた。
「あのね、私は静久ちゃんに変わって欲しいわけじゃないの。むしろ、叩かせてなんて言われても困るし、もちろん静久ちゃんが望むなら頑張るけどね? ただ、静久ちゃんに冷たい目で見られて、気持ち悪いって言われて、ちょっと興奮しても許してほしいだけなの」
「最後のがなければいい言葉だったのに……」
うん。でも、気が楽になったのは事実だし、ご飯食べて帰るつもりだったけど、少しだけお礼をしないとね。
「ねぇ、先生、キスしよっか」
「えっ! で、でも、まだご飯食べたばっかりだし!」
「同じもの食べたんだから、気にしないよ」
躊躇う先生を抱き寄せて、ちょっと無理矢理にキスをした。別に決めているわけじゃないけど、キスをしたらセックスまでという暗黙の了解があるなかで、先生は当然のように、私の腰に手を回そうとする。
「んっ。それじゃ先生、また明日ね」
「えぇ! 今のはエッチする流れじゃないの!?」
「だって、今日、泊ってくるって連絡してないし」
予想通りぐずる先生に、ほくそ笑みながら、決めていた言葉を言った。
「そんなにエッチしたいなら、帰りたくないって、言わせてみてよ」
分かりやすい挑発の言葉に、先生は目の色を変えて、普段は草食動物みたいな眼つきが肉食動物みたいになる。そんな視線に、不快感より、少しだけ興奮してしまう。
「静久ちゃん、そんなこと言っていいの?」
「先生こそ、あと2時間もしないうちに、私帰っちゃうけど、おしゃべりしてていいの?」
その言葉が最後。私は、ベッドに連れていかれ、いままで、手加減されてたんだなぁと思い知らさせるくらいに啼かされた。もともと、泊っていつもりではあったけど、1時間もしないうちに、あっさりと白旗を振ったまでは、計画通りだんだけど、やっぱり人生はそうそううまくいかないようで
「いや、もう、泊っていくんだし、いいでしょ?」
「ダメ。言ってくれなかったら、さっきのもう1回ね」
さっきのとは、なにをどうされたのか分からないけど、気持ちいのが止まらなくて、本気で泣きをいれたそれである。先生、ホントにマゾなの? これまで何度も抱かれてきたけど、真逆としか思えない所業だ。ちなみに、今言い寄られてるのは、例の一言を口にするかしないか。恥ずかしいから絶対嫌だけど、それでも言わせようとする先生は、やっぱり、マゾなんかじゃない。
「うぅぐぅ……き、今日は、帰りたくない……はい、言ったでしょ!」
「帰りたくないから?」
「先生、マゾだって嘘だよね?」
「そんなことないよ?」
にこにこと私を追い詰めておきながら、どの口が言うのか。言いたくない、言いたくないけど……うぐぐ、今日だけ、今日だけならいい……かな。この考えはダメな方に流されそうだけど、もう、どうにでもなれ。
「帰りたくないから……帰れなくなるくらい、滅茶苦茶にして……♥
はい、サービス終わり! もう、2度とやらないから!」
死ぬ!恥ずか死ぬ!こんな、媚び媚びなのはキャラじゃない。もう、全部忘れて寝てしまおう。そう、思っているのに、目の前には血走った目で見つめる先生がいる。
「あの、先生? 分かってると思うけど、冗談だからね? 私もう疲れたし、先生も十分満足したでしょ?」
じりじりと後ずさる私は、あっさり先生に組み伏せられ、震える声で先生に自制を促すけど、それは無駄だと目を見て悟った。
「静久ちゃん、これは大人をからかった罰だからね?」
「いやいや! 先生が言わせたんでしょ!」
理不尽だ―! という言葉は、キスで飲み込まされ、文字通り滅茶苦茶にされた。絶頂に絶頂を重ねて、訳が分からなくなってからは、いっそ吹っ切れてしまって、死ぬほど気持ちいセックスを愉しんでいたあたり、私も随分染まったなぁ、なんて意識が途切れる瞬間、思わず笑ってしまった。うん、先生を挑発するときは気を付けよう。でも、年に1回くらいなら、こういうのもいいよね?
美少女を百合の花で囲うには ふーるフール @hakain0
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