椎名小百合は打ち明けたい!

「――はぁぁぁぁぁ……」


今日何度目かの大きな溜息をついてしまいました。生徒からは上の空だと指摘され、同僚の先生方からは体調不良を心配されました。ですが、あのことが頭から離れてくれなくて、私は人生最大の悩みを抱えていました。


「ねぇ、先生、大丈夫?」


ついには、静久ちゃんにも心配されてしまいました。珍しく不安げな表情に、すべてを打ち明けたくなってしまいますが、静久ちゃんにだけは絶対に言えない悩みなのです。


「大丈夫だから心配しないで。ちょっと、寝不足なだけだから。そんなことより、今日は、きゃっ!」


「私には隠さないで。どんな悩み事だって、失望なんてしない。だから、教えて。ねぇ、先生、また、セクハラされてるとかじゃないよね?」


肩を掴まれて、無理矢理、正面を向けさせられると、悲痛な表情の静久ちゃんが目に入りました。愛されてると感じれば感じるほど、この悩みは打ち明けられなくて、私は逃げるように話を打ち切ろうとします。


「本当に大丈夫だから、ね。本当にちょっとした悩みなの」


「だったら、言えるよね?」


「ごめんなさい、静久ちゃんにだけは言えないの。でも、信じて。静久ちゃんを裏切ったり騙そうとしてるわけじゃないの」


「ダメ。言ってくれるまで、離さない」


決意を込めた言葉に、私はそれ以上の言葉を持てず、縋るように静久ちゃんを見上げました。でも、まだ迷いがあります。本当に静久ちゃんが受け入れてくれるのか、受け入れたら、それはそれで問題があるのです。


「―――後悔するかもしれないよ? それでも、聞きたい?」


「聞かせて」


短い言葉でしたが、静久ちゃんの覚悟が伝わってきて、私も覚悟を決めました。私と静久ちゃんのこれからを変えてしまうかもしれない悩み。


「――実は、私……私ね……」


バクバクと心音が高鳴って、静久ちゃんに支えてもら分ければ倒れてしまいそうなくらい緊張してしまいます。それでも、勇気を出してくれた静久ちゃんの為に、私はついに打ち明けました





「私、マゾかもしれないの!」






「――――は、い?」


長い長い沈黙の果てに、決意を込めた瞳が、理解を拒んだような虚ろな目に代わっていきます。だから、言いたくなかったんですよ!でも、もう止まりません。そもそもの原因は静久ちゃん、貴方にあるんですから!


「私だって、気づかないように見て見ぬふりをしようとしてたの!最初は、静久ちゃんに耳かきして貰ったときにね、変態って言われて興奮しちゃったの!でも、元々、耳が性感帯だったし、気のせいだって思いこんでたのに、静久ちゃんがあんなことするからぁ!」


「あんな、こと……?」


「とぼけないで! 私に制服を着せて、あんな、あんな辱め……!」


今思い出しても、体が熱くなります。死にたくなるくらい恥ずかしいのに、パシャパシャと遠慮くなくシャッター音に吐息が荒くなって、あそこが濡れてきて……その後には、静久ちゃんに優しく抱かれて。でも、やっぱり意地悪な言葉攻めで、飴と鞭で私は抵抗なんてできずに調教されてしまったんです。


「あんなことされたら、堕ちてもしかたないでしょう!静久ちゃんバカぁぁぁあああ!大好きぃぃいぃぃいぃいいいいい!」


思いの丈をすべて吐き出した後は、私の荒い吐息だけが静かな部屋に響いていました。対する静久ちゃんはというと、魂の抜けた人形みたいになっていて、感情の伴わない笑顔で言いました。


「――先生、聞かなかったことにしていい?」


「だから、聞かない方がいいって言ったのにぃぃいぃ!」


「あんな深刻そうな顔から性癖を暴露されるなんて思わないでしょう!」


次は、私が静久ちゃんの肩を掴む番でした。当然、掴むだけで収まるはずがなく、肩を掴んで前後に揺らしています。それからしばらく、言い訳の応酬を繰り返していると、少し冷静になった静久ちゃんがついに折れました。


「わかった、分かりました!私が悪かったから。先生がマゾでもドМでも見捨てないし、そもそも、先生が変態なのは今更だし」


「ほ、ホントに? これからも言葉攻めしながら耳かきしてくれる?」


「さりげなく、欲望を混ぜるのヤメテ。とにかく、先生の性癖が歪んでるのは承知の上だし、その上で先生と付き合ってるんだから、今度からいちいち悩まないで相談すること、いい?」


「これからも、性癖を暴露させられ続けるの? 静久ちゃん鬼畜すぎない?……でも好き」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


深い深い溜息をつく静久ちゃん。ごめんね、変態で。でも静久ちゃんにも責任があると思うの。あんな風に本気で心配してくれて、本当に愛してくれて、どんなことでも受け入れてくれるから私は、どんどん溺れてしまうのです。


「あっ、でも、安心してね? 私がマゾでも、静久ちゃんにエッチなことをするのは大好きだから」


「全然安心できない情報をありがとう……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る