第5話 斉藤VS不良
「おい、学校行くとかふざけんな。」
「何故?」
「いやいや、おかしいだろ。お前、任務遂行なんちゃらはどうするんだよ。」
「これも、任務の一環だ。お前らの時代の学生の技量をはかるのにいい機会だ。」
「いやいや、うちの学校、そんな頭いいやつ居そうにないから。」
「でも、お前の学校、一応エスカレーター式の名門だろ?」
「畜生、何でもかんでも勝手に人の頭んなか読みやがって。俺のプライバシーは無いのかよ。」
「まあ、お前のレベルはだいたいわかってる。だがお前の学校には、もっと素晴らしい学生が存在しているかもしれない。」
「フン、どうせ俺は低レベルだよ。」
「まあな。」
「まあな、って。ともかく、学校にはどう説明するんだ?」
「そこは心配はいらない。」
「お前、またうちの母ちゃんみたいに催眠かけるつもりか?っていうか、そんな能力あるんなら地球征服だって夢じゃないんじゃないか?」
「何故そんなことをしなければならないのだ?まったく意味がわからん。」
「正直、ほっとしたよ。まあ、学校連れていってやってもいいが、女装のやつは連れて行かない。」
「なんだよ。こっちのほうが俺の顔には似合っているだろう?」
「とりあえず、男と女がひとつ屋根の下に住んでいるって思われるのはいやだ。」
「・・・ふぅん、特に桃花ちゃんには、ってところか?」
「なっ!なんだよ。人の心読むなって言ってるだろ!」
「わかった。じゃあ、そのお前の着ている服と一緒のもので我慢してやる。」
「何様なんだ、お前。ほら、俺の中学生の時に来てたお古がお前のサイズにぴったりだろ。」
「フン、運動神経のいいだけの木偶の棒のくせに。」
「うるせえ。ガタガタ言うと家から叩き出すぞ!」
すると、斉藤の目がカッと開いた。
「わぁっ!室内でのビーム禁止!ってか、どこでも禁止!お前だって穏便に任務を遂行したいだろ!」
斉藤は、唇をとがらせると、渋々俺のお古の学ランに手を通した。
「ちょっと長いな。」
なんなんだ、斉藤。その萌え袖。クッソかわいいな。ああ、斉藤は何故女の子のアンドロイドではないのだ。
俺は、もやもやした気持ちで、斉藤と高校への道を歩いた。
桜はすでに、葉桜にかわりつつあり、道行く車が花びらを舞い上げていた。
「おい、あれは何をしているのだ。」
斉藤は、公園の隅で不良と思しき連中に取り囲まれている、気弱そうな男子高生を指して言った。
「おい、バカ!指さすな。こっちにとばっちりが来るだろ!」
「何をしているのだ、あいつらは。」
「ああ、あれはこの辺でよく見かける良くない連中だ。たぶん、あの学生はカツアゲされてるんだろうな。ご愁傷様。」
「カツアゲとはなんだ。あの美味いやつか?」
「どこから仕入れた情報かは知らないが、違うな。カツアゲってのは、恐喝して金銭を巻き上げることだ。」
「なるほど。」
そういうや否や、斉藤はズイズイと不良たちのほうに向かって行った。
「ちょっ!バカ!戻れ!」
「ああ?なんだてめえ、チビ助!」
不良たちが斉藤を取り囲んだ。ああ、ダメだ。あいつら死ぬ。
「おい、大輔。カツアゲってのは悪いことか?」
ひぃっ!俺に振らないで!
「おい、お前も仲間か、ごるぁ。なんか文句あるのか?」
俺の方に不良が向かってきた。
そのとたん、その不良の頭から焦げ臭いにおいがした。
「あっ!あっつ!」
不良が突然、頭を押さえてバタバタしはじめた。
あぁ、あいつ、やらかした。
不良は後ろから何者かに攻撃されたことに気づき、斉藤を睨みつけた。
「てめえ!何しやがった!」
一緒にいた不良の仲間からどよめきが起こった。
「なんだよ!」
不良のリーダー格らしき野郎の頭に一本の線が見事に髪の毛を焼き払っていた。
斉藤の目がまた、カッと開く。
「おい、斉藤!やめろ!」
俺の叫びも空しく、斉藤の目から発されたビームは、リーダー格の男の髪に、もう一本ラインを入れた。短髪の赤髪にちょうど頭頂部にバッテンが描かれた。
「こ、こいつ!目、目からビーム出しやがった。」
一瞬のことで、どうやら、目からビームを発したのを見たのは、この男だけだったらしく、他の仲間はキョトンとしていた。
「こら、君たち!何をやっているんだ!」
絶妙なタイミングで、警察官がやってきて、見た目どう見ても凶悪そうな相手の不良の方に詰め寄った。
「おまわりさん、この人たちが、そこの男子を恐喝して金銭を巻き上げようとしていました。」
斉藤は無表情で、警察官にそう伝えた。
「いや、ち、違う!あいつが・・・目からビームを出して・・・。」
「はぁ?何を言ってるんだ君は!」
「そうだぞ、そこの不良。人間の目からビームが出るはずないだろう。」
斉藤はシレっとそう答えると、不良たちは、警察官に連れて行かれた。
「し、信じて。あいつ、目からビーム出すんです。」
最後の最後まで、そう言いながら、パトカーに押し込められて行った。
「おい、斉藤、あまり面倒にするなよ。」
「お前は、いつもそうやって、何からでも逃げているのか?」
「・・・」
俺は斉藤に返す言葉がなかった。俺だって、あの高校生がかわいそうだとは思った。だけど、俺にはあいつらに勝てる勇気がなかった。俺はアンドロイドより薄情なのかもしれない。
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