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「えっ! あ、あげちゃうんですか?」

「そうだよ、村の連中にな」と男はさも当然かのように立ち上がった。

 オレは男の言ってる意味が理解出来ず再度見上げもう一度聞いてみた。

「どうしてあげちゃうんですか? だってさっき村の連中から取り上げる

ような事言ってたじゃないですか」

「あぁ、言ったよ」

「じゃ~ どうして反対の行動取るんですか? せっかく採れたのに」と

どうにも納得いかないオレに男は丁寧に順を追って説明し始めた。

「いいか、まずみんなで手分けして村で人気者や頭が良さそうな奴から

順に価値があるストーンを配るんだがその際必ずお前に投票する様約束

させるんだ」

「でもそれじゃストーンが足りなくなるような……」と布袋を覗くオレに

男は深いため息と共に説明を続けた。

「だから影響力のある奴から配るんだよ。いいかストーンとの交換条件

として奴らの友達にもお前に投票するように説得する事も含まれてるん

だよ」

「なるほどそういうことか」と、とりあえず納得はしたが貴重なストーン

を選挙の為に使ってくれる事に申し訳なさを感じたオレはもう一度男に

確認してみた。

「本当にいいんですか? ストーン使っちゃって」

「あぁいいよ、どうせ後で回収するから」

「えっ? 回収出来るんですか?」

「出来るよ、お前みたいに強引に奪い取らなくってもさ」と男は涼しげな

表情で鼻をこするような仕草を見せた。

「まさかストーンに羽が生えて戻ってくるとか」と冗談交じりに両手を

パタつかせると男から意外な答えが返って来た。


「そうだよ」


「えっ、ホントに?」

「あぁ、ほぼ正解だよ」


 男は再びその場に腰を下ろし冗談のような答えの種明かしをしてくれた。


「とりあえずお前は村長になる、これが絶対条件だ」

「は、はい、頑張ります!」

「まず就任して最初にお前がやる事は収賄の罰則強化だ」

「シュウワイ?」

「つまりワイロを受け取るって事、今回で言えばストーンがそれに

当たるだろ」

「は、はい……」

「罰則強化ともなれば今回ストーンを受け取った連中は当然ストーンを

持ってるだけで内心ビビるワケだ。そこでお前は村人達に向かって今回

の罰則強化に一定の猶予期間を設けると伝える。いいかここからが大切

だからよ~く聞け」

「は、はい!」

「まずお前の仲間が渡した連中にこっそりストーンを引き取ってやると

持ちかけるんだがその際、収賄容疑の抜き打ち捜索が予定され、ストーン

を持ってるだけでも面倒くさい事に巻き込まれると脅した上に、ストーン

が大量に発掘されたとウソの情報もこっそり教えてやるんだ」

「そのウソの情報も必要なんですか?」

「あぁ、大量にあるってことは価値が大きく下がる事を意味するからな。

で、連中は罪を犯したっていう意識から罪滅ぼし的な意味も含め出来るだけ

早くストーンを手放すよう友達にも勧めるようになるんだよ。影響力のある

連中だけにより真実味が増し、噂は一気に広まるだろうな」

「へぇ~ とりあえず収賄に関わった連中から問題のストーンと元々奴らが

持ってたストーンをゲット出来るは分かったんですけど他の村人達の分は

どうするんですか?」

「はぁ? 何言ってんだ、お前達が村のあちこちで臨時の交換所を作って

ストーンを回収するんだよ」

「でもタダで回収ってワケには……」

「大丈夫だよ。もうストーン自体に価値はないし、ヘタに持ってりゃ疑いの

目に晒されるんだから僅かな食材でも喜んで交換するだろうよ」と男は妙に

自信ありげな表情を見せたがオレにはまだ不安材料が残っていた。

「あの~ 仮にですよ、運よくオレが村長になれたとしてですよ……」と

切り出すオレに男は凄い見幕で睨み付けまるで脅すように言い放った。


「何弱気なこと言ってんだよ、絶対なるんだよ!」


「す、すみません」とすっかり意気消沈したオレに男は急に優しい口調で

聞き返した。

「何だよ、さっきの。何か質問あんだろ」

「は、はい……、もし、あっ、いや、オレが村長なった後の話なんですが、

こんなズルして村長になったオレの言うことを村の連中は素直に従って

くれるかどうか気になっちゃって……、大丈夫でしょうか?」

「フッ、お前って意外と心配性なんだな」

「ははっ……」と照れ笑いするオレに男は自信満々に答えてくれた。

「絶対大丈夫だよ!」

「どうしてですか? オレだったら文句言いそうですけど」

「いいかよく聞け、お前を選んだ連中はズルに加担したんだから言って

みればお前と同罪なんだよ。分かり易く説明するとお前と連中はお互い弱み

を握り合ってるとも言えるわな。そんな関係で連中がお前に対し正々堂々と

意見を押し通したり、反論出来ると思うか?」

「たぶん出来ないと思います」

「だろ~ そういうもんなんだよ。人間ある程度クリーンじゃないと正論を

ぶつけたり、ましてや正義なんて通せないもんなんだ」

「じゃ~ 直接今回の不正に関わっていない村人は大丈夫でしょうか?」

「そういった村人は常に影響力のある連中の意見に振り回されるから、今回

不正に絡んだ連中が大人しくしてりゃ村人自ら立ち上がりお前に意見する事

なんてねえよ。だから心配するなって」


 ……男の説明はオレにとってまさに目から鱗で、オレ達メンバーは男の

命令に従い一旦採掘を中断し、収賄に絡む人選及び各エリア分担等慎重に

且つ十分に時間を割き、来たる選挙戦に備えることにした。

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