22-1(58)

 ―再び特区・ショ―タのアパートにて― 



 コータと名乗る使いの男性によると7番村では近々村長選が行われる

らしく、もし候補者でもあるゲンタが当選すれば村の秩序が崩壊するだけ

でなく村の存続自体にも悪影響を及ぼし兼ねないとナオちゃんはかなりの

危機感を募らせているらしい。

 この件に関しては僕も彼女と同意見で、村人より私欲を優先する者が

一旦村の長となり、彼にとって都合のいい制度が作られるとそれを覆すのが

非常に困難な事は僕自身特区での経験上痛感しているからだ。

 とにかく一刻も早く村に帰る必要性に迫られた僕は今後について色々相談

に乗って貰おうと全員に連絡を取る中、いち早くアパートに来てくれたのは

ソラちゃんとひなちゃんだった。


「えっ、”ひなのや”臨時休業しちゃったの?」

「うん、緊急事態だもんね」

「ごめんよ」

「何言ってんだよ、水くさい。それよりコータくん、村は実際どんな感じ

なの?」

「はい、ナオちゃんによるとですね、表向きは単に村長選が近いってだけ

なんですけど、どうも裏で何か企んでる奴がいるそうなんです」

「企んでる……、何だろ?」

「それがまだハッキリと分かんないみたいなんです」


〈キィーッ!〉


「おまたせ~」


 ミカちゃんが大きな荷物を抱えて入って来た。


「相変わらず狭くって汚いわね~ ショ―ちゃん掃除してるの?」

「うるさいな~ 早く座りなよ、今大事な話してんだから」

「ハイハイ」と彼女は荷物をほおり投げソラちゃんとひなちゃんの間に

割って入った。

「彼、コータ君って言うんだけど村の情報をわざわざ教えに来てくれ

たんだ」

「へぇ~ それはどうも」と素っ気ないミカちゃんをよそにソラちゃん

は腕組みし首を傾げた。

「その企んでる奴の目的って何だろ?」

「そこなんですよね~ もし村を占拠したければ自分が村長選に立候補

するはずでしょ、普通は」とソラちゃん同様首を傾げる中、ミカちゃんが

突然思いもよらぬことを言い出した。


「レアストーンじゃない」


 一瞬僕とミカちゃん以外の3人は一斉にお互い顔を見合わせたが次第に

それは有り得ないという空気に包まれた。


「ミカちゃん、それは違うと思うよ」とソラちゃん、ひなちゃんが声を

揃えて反論する中僕は妙な胸騒ぎを覚えた。

「やっぱそうだよね~ だって石のあるとこショ―ちゃんしか知らない

もんね!」とこちらに笑顔を向けるミカちゃんに僕は一瞬言葉を詰まらせた。


「ショ―ちゃんどうかした?」 

「あっ、いや別に……」


「な~んか変なの」「ところでさぁ~ どうして村長選が始まるのよ。村長

はショ―ちゃんじゃない!」と村の現状に納得いかないミカちゃんにコータ君

は妙な噂が原因だと言い出した。

「誰が最初に流したかは分かんないですけど、ナオちゃんによるとショ―タ

さんは村を捨てた裏切り者のレッテルを貼られてるようなんです」と淡々と

話す彼に彼女は動揺し、いきなり僕に向かって説明を求めた。

「どういうことなの? もしかしてショ―ちゃん、集会開かなかったの?」

「あぁ、だってループラインの事は喋れないしさ~」

「そんなの隣の村に視察とでも言っておけば良かったじゃない! 黙って

村を出るなんてどうかしてるわよ!」と説教モードの彼女にひなちゃんが

耳元でそっと一言囁いた。


「ちょ、ちょっとミカちゃん……、私たちには言う資格ないわよ」


 その言葉を耳にした彼女は急に恥ずかしくなったのか少し頬を赤らめ

「まぁ、た、確かにそうよね」と口を尖らせ僕への説教モードはあっけなく

終了したが、その間黙って聞いていたコータ君が推測ながら村の状況を

話し出した。

「実際村では裏で何か企んでる者に加え最近2、3人彼の仲間らしき者

を見たっていうウワサも聞いてますし、ショ―タさん一人じゃちょっと

危険かなと思うんですけど」と申し訳なさそうに僕を見つめる中、

ソラちゃんがいきなり手を振り出した。


「僕達もいっしょに行くよ!」

「えっ、ホ、ホントに!」

 

 予想もしない展開に内心ホッと肩をなで下ろした僕だが次第にモエさん

のあの言葉が蘇りテンションは一気に急降下した。


「ソラちゃん、ひなちゃん、気持ちは嬉しいけど今回は一人で帰るよ」

「どうしてだよ、一人じゃ危険だって」と引き下がる様子を見せない2人

に僕はもう一度ソラちゃんが累積ペナルティーに該当する旨を伝える事で

僕の決断に納得してもらおうとしたが2人から帰って来た答えは実に意外な

ものだった。

「ペナルティーの件はもういいんだ。実はココに来る前にね、ひなと話して

たんだけど懐かしい彼女の故郷でもある7番村でもう一度お店を出すのも

悪くないよなって言ってたとこなんだよ。……なっ! ひな」

「そうなのよ。だって村の方が空気イイし、やる事は基本同じなんだから」

と彼女はなんとも優しい笑顔を滲ませた。

「ホントに甘えてイイのか?」

「もちろんだよ。ちょうど先月で借金も終わったしさ、いい機会だよ」と

ソラちゃんも微笑んだ。

 場の空気が一気に明るくなりコータ君が「じゃ~ ココにいる全員で村を

救済するってことになりましたね!」とちょっとした盛り上がりを見せる中、

ミカちゃんがボソッと一言呟いた。


「みんな帰っちゃうのね……、寂しくなるわ」


 その瞬間、全員の厳しい視線がミカちゃん一点に集中し声を揃えた。


『ミカちゃん!!』


「じょ、冗談よ、ジョーダン。ホントみんな怖いんだから~」と渋々了承した

彼女と共に僕達はその2日後、各自パンパンに膨らんだリュックを背に7番村

に向う内回り線・特急列車内で引き続き村について語り合う事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る