20-1(48)

〈ファ――ン!〉〈ガタン!〉〈ゴトン!〉…… ……


 僕は地味めなジャケットに黒いハーフコート、黒い帽子を目深に被り、

伊達メガネにマスク姿と見るからに怪しげなスタイルながらひっそり

V駅を目指していた。 

 理由はただ一つ、あのクラブのオーナーに見つからないようにする

ための僕なりの工夫だがもしかすると逆効果だったかもしれない。

 車両を行きかう乗客からの視線になんとか耐えながらV駅まであと少し

という所まで来たがまだ安心は出来ない。

 なぜなら僕はあの名前のない怪しげな町から国際指名手配されてる

可能性があるからだ。

 もしそうならばこの車両にいる乗客だけでなく他の車両の乗客にも

奴らの手下が潜んでいて、駅到着と同時に確保されるという最悪の

シナリオも否定できない中、僕は手汗でびっしょりの両手を膝の上で

合わせ必死にそうでないことを祈った。


〈キキィ――ッ!〉


 列車はかん高い音をたて、V駅に到着した。


 以前に比べ異常に多い乗客が他の車両から続々と降りる様子を目の

当たりにし、安全面からとにかく全員下車するのを待つことにした。 

 完全に乗客の姿が見えなくなるのを確認した僕は辺りを伺いながら

ゆっくり下車し、改札を目指し階段を一気に駆け上がるとそこには僕の

想像を遥かに超える驚きの光景が広がっていた。

 それは以前のようにひっそりと謎めいたものとは違い、多くの人々で

賑わうまるで小さな空港のような空間だった。

 明るく開放的な空気のおかげで恐怖心が一気に吹っ飛んだ僕は乗客達

が長い列を成す最後尾に並ぶことにしたが、ふと列上部の表示が気になり

出した。

【V・CITIZEN】……? どういう意味だ?? 

 ちなみに誰も並んでいない隣には【NON―V・CITIZEN】とある。

 どちらの意味も理解出来ない僕はとりあえずみんなが並んでるこの列

で順番を待つことにした。


――

――――


 遂に列の先頭、いやたった一人残された僕の番となり、スタッフに

手招きされた僕は前方に歩を進め、足型のサインの場所で立ち止まると

いきなりパスポートの提示を求められた。

 当然そんなもの持ち合わせていない僕は隣に移動するよう促され、

隣に向かうと予想どうりスタッフからココに来た目的を尋ねられた。

 ……僕は正直戸惑ってしまった。

 なぜなら目的は2つあり、1つは視察のためだがもう1つは好きに

なった女性を捜すためだなんて恥ずかしくてとても口に出せなかった

からだ。 

 黙って俯く様子に加え怪しげな服装に当然不信感を抱いたスタッフの

女性は僕を右奥の小部屋に誘導し、目の前の丸椅子に座るよう指示し

質問を繰り返した。

 ただ以前テレビのドキュメント番組で見た光景とは違い、実際体験して

みるとまるでカウンセリングを受けているかような感覚に見舞われ僕は

あっさり本当の目的を2つとも正直に喋ってしまった。

 少し笑みを浮かべた彼女は「じゃ~ 観光扱いねっ!」と後ろの棚から

予めセッティングされたような箱を取り出し僕の目の前に置いた。


「あの~ これ何ですか?」

「まず、これが観光客を示すバッチでこれがアナタの居場所を特定する

GPSチップよ。バッチは常に胸の辺りに付けて、チップは必ず携帯してね!

それとこれがこの町で使えるクーポンで食事やホテルで使えるから。

あっ、ただしお釣りが出ないので注意してね」と地図といっしょに

観光グッズ一式手渡された。

「い、いいんですか? 貰っちゃって」

「もちろんよ! だだし滞在期間は2泊3日だから気を付けてね」と

彼女から注意事項や様々な情報をゲットした僕は小部屋を出て、中央に

ある大きなすりガラスの扉の前まで彼女の案内でやって来た。

 丁寧にお礼を言った後、突如開いた自動ドアから覗くその光景は過去

訪れたどの町とも違うこの町特有の温かな空気が一気に溢れ出すなんとも

心地いい空間が広がっていた。

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