19-1(47)

 ランチ営業が一旦終了し、ひなが外出する中、僕は長椅子に腰掛け

ぼんやり空を眺めてると予想どうりミカちゃんから電話がかかって来た。


『もしもし、ミカちゃん?』

『うん、ワタシ。あのさ~ ショ―ちゃんと連絡取れないんだけど、

ソラちゃん何か知ってる?』

『うん、知ってるよ』と僕はあっさり答えた。

『えっ! 知ってるの?』と驚く彼女に対し僕は冷静に説明した。

『たぶん今頃視察のためループラインに乗ってると思うよ』

『視察ってどこよ!』と焦りとどこか怒ってるような彼女の声の変化に

若干動揺した僕は一瞬スマホを耳から遠ざけた。

『Vって町だよ』

『え――っ! どうしてワタシに言ってくれなかったのよっ!』と更に

声のボリュームがアップした。

『ごめん、ごめん、でもショ―ちゃんがミカちゃんには内緒にしてって

言われたからさ~』と内情を話すと少し間が空き、テンションが急降下

した彼女がボソッと呟いた。

『レイさん……そう、きっと彼女を捜しに行ったんだわ』

『えっ、まぁ、それもあるんだけど……』

『どうして止めなかったのよ!』とかなりご立腹の彼女に対し、僕なりに

感じた彼の熱意を交え彼女を説得にかかった。

『ショ―ちゃんが会えるかどうかも分かんないのに危険を冒してループライン

に乗る決心をしたってことは彼女に対するそれなりの思いがあるんだと思うよ。

最初は僕も反対したよ。でも彼の決意が思いのほか固くって僕にはそれ以上

引き留めるなんて出来なかったんだ。それにね、ショ―ちゃんは今の特区の現状

に幻滅して心底疲れちゃったと思うんだ。ミカちゃんも毎日色々大変だろ?』

『うん、まぁ……ねっ』

『この前ショ―ちゃんから現状特区が抱える問題を突き付けられたけど

僕はまともに答えることすら出来なかったんだ。でも彼はすぐに答えが

出せないながらも必死で考え、それを僕に提案したり意見を求めたり本当

に真剣そのものでね。事実、ショ―ちゃんからの指摘で気付かされた事が

いっぱいあったりして、彼よりずっと長くココ特区に暮らしてる僕は随分

恥ずかしい思いをしたよ。ずっと暮らしてると慣れちゃって案外気付かなく

なるのかもね』

『そんな事があったんだ』と妙に納得する彼女の声が急に柔らかくなった。

『ショ―ちゃんは村人達に彼自身ココ特区で味わったイヤな部分を経験

させたくなくって他の町の社会システムや住人を視察したくなったんだ

と思うよ』

『まぁ、ショ―ちゃんらしいよね!』

『まったくそうだよな』

『でも視察に通訳兼秘書のワタシを置いてくなんて納得出来ないんだけど』

『あっ、そうそう、ショ―ちゃん言ってたよ。理由はペナルティーで

ミカちゃんの美貌が損なわれたら困るからって!』

『!!……そ、そういうことだったら仕方ないわね。あっ、ワタシそろそろ

お店行かなきゃ! まったね~ ソラちゃん!』と上機嫌な彼女にいきなり

電話を切られてしまったが、とりあえずウソも交えなんとか彼女に納得して

もらえた僕は急いで夜の準備と仕込みに取り掛かった。

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