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「な、何だよ、この紙切れは?」

「ユミねえちゃんの直筆よ。この前たまたまポケットの整理してたら

出てきたの」

「だからどういう意味って聞いてんの」

「そんな怒んないでよ、せっかくプレゼントしてあげたのに~  

ユミねえちゃんはV町出身って意味よ」

「それってもしや」とさすがに鈍い僕も理解し始めた。

「そういうこと! もしもだよ、もし2人が同一人物ならレイさんはVって町

に帰っちゃったって可能性もあるよね」

「あぁ、そ、そうかもな」とあからさまに肩を落とす僕とは対照的に彼女

は急に背筋を伸ばし僕の肩を「ポン!」と叩いた。

「男は諦めが肝心よっ! また新しい恋見つければイイじゃない。ねっ!」

と彼女は目の前の日本酒を一気に飲み干し再び僕を下から覗き込んだ。


「なんなら私がショ―ちゃんの新しい彼女になってあげよっか?」


 …………。 


 彼女の冗談めいた2度目告白にも一向に反応しない僕に相当腹を立てた

のか彼女はたて続けに日本酒を注文し、気づけばカウンターでいつもの

お喋り攻撃を受けるハメとなった。

 その後足元がおぼつかない彼女を無事送り届け、彼女からようやく解放

された僕は自宅ベッドに横たわり、天井越しに彼女から貰った一枚の紙切れ

の文字をしばらく見続けていた。

 

 Vって言えば確かナオちゃんの出身地で花言葉、あっ、いや町言葉?は

”愛の女神”ってソラちゃんが言ってたけどココ特区で感じる愛とVって町

の愛、何か違いがあるんだろうか?

 ココ特区にお邪魔し真っ先に思い浮かぶのはやはり大型ショッピング

センターでよく目にする家族連れのお客さんが見せるあの明るい笑顔だ。

 なんとも温かく広範囲に発する美しい愛のオーラは他人の僕の心までも

揺さぶり、身体の中から温めるくれるほど強力で心底僕を和ませてくれる。

 なのにどうして社会全体から同じような愛を感じないんだろうか?

 どこか殺伐とし疑心暗鬼で互いに見栄を張り、競い合い、時には無関心を

装う以前ナオちゃんがダメな町として指摘したような毎日。

 もちろん様々なことが原因として今の世の中に影響しているとは思うけど

僕はやはり社会システムに問題があるように思う。

 例えば限りある資源を奪い合うゲームにルールらしいルールがなく、

たとえルールが存在したとしてもちっとも人に優しくないし、そこに全然

愛を感じないんだもん。 

 しかも勝者は資源を一人占め出来るってのもなんかしっくりこないんだ

よな~。

 僕も村仲間といっしょによく特区でいうところのボードゲームで遊んだ

けど一人が大勝しても最後はみんなで果物を分け合ったし、大勝した子は

他のみんなよりほんの少し多い程度だからモメ事、やっかみナシでいつも

仲良しだったて事実からやっぱ一人占めはヤメた方がイイと思うんだよね。

 まぁ、ゲームと実生活を混同するのは違うかもしんないけど。

 あと人それぞれ得手不得手があるのに横一線に並べられて『よーいドン!』

って競争させるんだから一見平等のようである意味不公平だと思うんだけど

この考え方もやっぱり間違ってるのかな? やっぱそうかもね。  


 ……ナオちゃんが住んでる町はどうなんだろ? 

 

 特区での経験値が浅い僕はふと誰かと意見を交わしたい気分になり、

その際真っ先に頭に浮かんだのはやはりソラちゃんだった。

 僕は何の躊躇もなくスマホを手にソラちゃんと二人っきりで会う約束を

取り付けたが、まさかこの行動が再びループランに乗車するきっかけになる

なんて酔っぱらってるこの夜の僕には想像すら出来なかった。

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