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「今まで解明されてきた事をおさらいすると改札を通った瞬間一気に加速的

時間経過を体験するけど改札を抜けなければ加速的時間経過の罰を受けない

という事、加えて加速的時間経過を旅から帰った本人からすればギュッと凝縮

された時間の塊としか捉えられないけどその中には確実にもう一人の自分が

存在していたという事実、実はこの部分についての科学的解明はまだなんだ

けど少しづつ分かってきた事があるんだ」

「何だよ、それを早く言えよ」

「まだサンプルとしては十分じゃないんだけど体験者の話を分析するとね、

旅行先と滞在期間が大きくその人物のデフォルトに影響を及ぼすようなんだ」

「何なんだよ、そのデフォルトってのは?」とオレはイラ立ちからか貧乏

ゆすりが更に加速した。

「何って……、初期化の状態、つまりその人の最適な状態ってとこかな」

「何言ってんだよ、ますます混乱するじゃねーか」とオレは頭をかいた。

「もっと分かりやすく説明するとモノサシの形かな……、つまりみんな

それぞれ違ったモノサシを持ってるから意見が割れたり、感じ方が人それ

ぞれ違うように……えぇ~っと」と言葉に詰まりだしたレタスの野郎にオレ

は一言で救済してやった。

「つまり個性だろ!」

「そう! 個性。つまり考え方が影響されちゃうんだよ、旅先によって」

と路線図をオレの方に向けた。

「例えば神経質な人が丸で囲ってあるココみたいに大雑把な町で数日暮らして

元の町に戻ると知らぬ間に過ぎ去った期間中は大雑把な振る舞いをしてるって

こと」と男は路線図の該当駅を指差した。

「それって1日の滞在でも影響出るのか?」

「あぁ、多少はね。当然期間が長期化すればするほど影響は大きくなるよ」

「じゃ~ 複数の町や村に訪れた場合はどうなんだよ」

「ミックスだね!」

「フッ、何だよそれ」(やけに適当だな)

「そう、だからさ~ 訪問先があんまり性格の合わない町だと帰った後相当

苦労すると思うんだ。だって急に自分と合わない友達関係に変わってたり、

最悪何か事件に巻き込まれてるってこともあると思うんだ」と野郎は腕組み

し首を何度も上下に振るような仕草を見せた。

「あと面白い事に2人以上同時に改札を抜けるとね、抜けた中の一番重い

ペナルティーを全員一律に課せられるみたいなんで改札出る時は気を付け

た方がイイよ!」

「あぁ、分かったよ」

「ところで確認なんだけどこの新薬の実験結果は後ほど報告するとして

成功した場合、この袋にある新薬全部お礼として貰っていいんだよな」

「もちろんそうだけどそんなにいる?」

「オレの分だけじゃないんだよ、警備の奴らの分も必要なんだよ」との

説明に納得出来ず首を傾げるレタスの野郎にオレは続けた。

「オレの町から脱出する奴を追いかけるにも毎回警備員が町を出入りする度

年取ってちゃやってられないだろ。この前もオレのビルに入ってるクラブ

の元ホステスが手品師のオヤジといっしょに逃走しやがってさ、あのオヤジ

には一杯食わされたよ」と鞄を持ち立ち上がると野郎はまだ何か納得出来な

いような表情を浮かべた。

「どうして追いかけるの?」

「どうしてって、まぁ女の方は死にかけだからイイとして、もしあのオヤジ

がウチの町の評判を落とすようなこと吹聴しやがったら誰もオレ達の町に

来なくなるだろ。そうなればオレ達にとって都合のイイ人材を失うことに

なるかもしんねぇからな」とオレは玄関へ向かった。

「へぇ~」

「へぇ~ってアンタほんと人の話に興味持たないよね」

「あっ、ご、ごめん」とバツの悪そうな野郎の肩をオレは「ポン!」と叩き、

「まぁいいさ、アンタは研究とやらに集中さえしてくれればさ」と扉を

開けた。


〈ギィ――ッ!〉


「おっ、結構寒いな……、なるべく早く実験結果持って来るよ」と振り返る

とそこにはレタス野郎の姿はなくオレはちょっとした寂しさを感じながらも

そっと扉を閉めた。

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