15-1(40)
―未明のSI町にて―
〈ピンポン!〉
「開いてるよ!」
〈ギィ――ッ!〉
「よう! そろそろかな~って。へへっ……、出来たか?」
「うん、まぁ、とりあえずね。まだ効果があるかどうか分かんないけどね」
「効くかどうかの検証はオレ達の仕事だよ」と実験道具だらけの男の部屋に
足を踏み入れた。
「そのフラスコの横にある青いカプセルの袋がそうだよ」とこちらを一切
見ず背中越しに指さした。
「じゃ、とりあえず預かるぜ」と袋を鍵の付いた黒い鞄に詰め、複雑な
計算式を前に腕組みをする男の真向かいに腰掛けた。
「相変わらず小難しい顔してんな~ もっと楽しそうな顔できんのかね」
「いや、キミ、勘違いしてるよ。こんな顔してるけど十分楽しいんだ」
と男は少し表情を緩めた。
「アンタ、確かレタスさんだっけ、この薬どうやって作ったんだい?」と
鞄をひょいと上に持ち上げた。
「えぇ~っとキミは……名前何だっけ?」とバツが悪そうな男に「頭のいい
アンタが覚えてないのもムリないよ、だって初めっからないんだからよ」
と言ってやると男はホッとしたような表情を浮かべ話し始めた。
「まぁ簡単に説明するとね、脳も含め人間の臓器はボク達が生活する1日
のサイクルと絶えずリンクしているんだ。でもキミも経験あると思うけど
たまに朝寝過ごすことあるだろ。それは外のサイクルと臓器にズレが生じる
ため起こる現象なんだ。そこでそのズレの原因を突き止めるべく研究を重ねる
とあるホルモンにたどり着いたんだ。今回はそのホルモンの構造を解析した
した結果が新薬誕生に大いに役立ったって感じかな」
「ふ~ん、何か分かったような分からんような……」
「要するに外のサイクルと臓器のリンクを故意にズレさせるって事、つまり
時間が高速に過ぎ去っているのに臓器はその速さにリンクしないでゆっくり
進むっていうキミの町でいうところの騙しだよ」
「ははっ! 上手いこと言うね。とりあえず検証に成功すればループライン
のペナルティーで超高速に時が過ぎ去っても肉体的に年を取らないってこと
だろ」とオレは念のため再確認すると「そういうこと!」と男は人差し指を
立てた。
―上機嫌なレタスの野郎は更に続けた。
「実はこの研究にはもう一つボクにとって成果があってね。ずっと疑問
だったヒトにとっての睡眠の必要性も今回の研究と関係があるかもしれ
ないんだ。つまり睡眠が日々僅かに生じる時の経過と臓器サイクルの若干
のズレを修正しているかもしれないってことなんだ。まだ仮説段階だけど
案外理にかなってると思わない?」
「あぁ、そうかもな」「それよりペナルティーの超高速の時間通過に
ついてアンタなりの見解を聞きたいんだけど」と睡眠に全く興味がない
オレは話題を少し変え男に振ってみた。
すると「あぁその事ね。実は色々解明してきたんだよ~」と更に笑顔の
レベルがアップしたレタスの野郎はループラインの路線図を机の真ん中に
置き再び興奮気味に話し始めた。
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