2-6(9)
早朝、僕は出店のゴザに寝転びまだ真夏の太陽が昇る前の空を見上げ
るように目を閉じこの村について色々考え巡らせていた。
しかしこの村はいったいどういう村なんだろ?
ウチの村みたいにワ―ワ―キャ―キャ―と騒がしくないってことは
明らかに精神年齢は上のはずなのに生活レベルが同じってどうしてだろ?
それにみんないい人みたいだけどキッチリしてないっていうか、
いい加減というか、なんなんだこの村は。
ん? こ、この独特の臭いは……はっ! 僕は一気に目を開けた。
すると目の前にはあのおじさんの顔が!
「うわっ! ビックリした!」
「あっ、起きてたの。いや~ 昨日は悪かったな、ホントに」
「起きてたのじゃないよ、どうして昨日帰って来なかったんだよ」
「いや~ 実はさ~ 家に着いたら何を忘れたか忘れちゃってね……、で
考えてるうちに急に睡魔が襲ってきてついさっき起きたとこなのよ」
「はぁ~」(どんだけ寝るんだよ)
「年取ると眠りが深くってね」
「ふ~ん」(ウソつけ、ふつう浅くなるんだよ)
「それとさ~」
「モウイイヨ、ワカッタヨ」(つぅーか、あんまりしゃべんなよ、鼻がっ)
「お礼に2ダ~ルあげるよ」
「いいのか?」(なんだよ2ダ~ルって、ダラダラしやがって)
「もちろん! もうちょっとあげようか?」
「いいよ、いいよ」
これ以上会話したくない僕は早急におじさんの元を離れ、市場方面に
進むことにした。
すると後方から三たび視線を感じ、素早く振り向くと確実に何かが
木の陰に隠れるが見えた。
僕は勇気を出しゆっくり木に近づき一気に後ろ側に回るとそこには
全身黒ずくめの見るからに怪しげな男性が不敵な笑みを浮かべ妙に
馴れ馴れしく話しかけて来た。
「よう! 大変だったな、店番させられて」
「なんだ、ずっと隠れて見てたのかよ」
「まぁまぁ、そんな顔すんなよ」
「まったく、駅のホームといい、ココでものぞき見するなんて変な
趣味だな」
「駅のホーム? そんなの知らねーよ!」
「まぁ、いいやどうでも」「で、ボクに何か用か?」
「いや、昨日たまたまベンさんとアンタの会話聞いちゃってさ、
ちょっと気になっただけだよ」
「何なんだよ、もっと分かるように言えよ」
「アンタの村ってまだストーンとか使ってるってホントか?」
「あぁ、たまに物々交換もするけどな」
「今、持ってるのか?」
「あぁ、必要かもしんないと思ってけっこう持ってきたよ」
するとその男は急に僕の肩に腕を廻し「ちょっとアンタに見せたい
モノがあんだよ」と耳もとで囁き、半ば強引に出店の裏側にひっぱり
込まれた。
「な、何すんだよ!」
「実はオレ、ちょっと珍しいモノ売ってんだけど見てくんない?」
「何だよ、その珍しいモンって」
「色々あるよ、例えばメチャクチャ元気になれる薬とかねっ!」
「そんなのいらねーよ」
「まぁ、アンタ元気そうだもんな」「ところでこれからどうすんの?」
「特区に行くつもりだけど」
「特区? アンタずいぶん変わってるね」
「どういう意味だよ」
「あんなバラバラで寄せ集めの町に何しに行くんだよ」
「勉強だよ……、勉強して村で色々役立てたいんだよ」
「アンタ、やっぱり変わってるよ」
「はぁ~?」
「何で他人のためにアンタが努力すんだよ」
「別にいいんだよ、ボクがそうしたいんだから」
「そもそも特区に入ると記憶が抹消されるって知ってるのか?」
「あぁ、でもたまに甦ることがあるらしいんだ。だからこれは
ボクにとって人生最大の賭けみたいなもんなんだ」
「ずいぶん大袈裟だな」「でもオレはアンタにその人生最大の賭けに
勝たせてやることが出来るんだが」
「えっ!」
「実はオレ、記憶が抹消されない薬持ってんだけど、へへっ!」
「ほ、本当か!」
「あぁ、今ココにはないけどオレの町に戻ればなっ! アンタの
ストーンと交換してやってもイイぜ」
「いいのか!」と僕は嬉しさのあまりポケットにあるストーンを
鷲掴みし男性の目の前に差し出した。
男はストーン1粒手に取り「ほぅ~ アンタの村ではこれで買物して
るんだ」と少し小馬鹿にしたような態度を取った。
僕は男の様子から不安になりストーンの価値を思い切って聞いてみた。
すると男は残念そうな表情を浮かべストーンの正式名とこの世界での
価値を教えてくれた。
「このキラキラしてる石はオパールだな。価値がないわけじゃないけど
かなり安いな。で、この緑がかった青い石をはじめ残りはガラス玉と同じ
で残念ながらほぼ無価値だな、ハッキリ言って」
「そ、そうなんだ」と極端に気落ちした様子に見かねたのかその男は
今回だけ特別に交換してもイイよ言いだした。
「ホントにいいのか?」
「あぁ、アンタ、いい人そうだし。その代わりこの事は他のヤツに絶対
しゃべるなよ! 商売やりにくくなるからな」
「うん! 約束するよ」
お互い売買契約が成立した僕たちは男の地元に立ち寄るためAR駅に
向かうことにしたが道中2人の間にさして会話はなかった。
それはしごく当然で薬の件以外僕にとってこの男になんら興味もなく、
男から滲み出る独特の怪しげなオーラに嫌悪感すら覚えるからだ。
会話からひも解くと精神年齢は確実に僕より上で頭も良さげなのに
何かが根本的に真逆のように感じられてならないが何がどう真逆なの
かが今のところ理解出来ない。
本当にこの男を信用して大丈夫なのか?
もしかすると薬なんてそもそも存在しないのかもしれない。
そんな不安をよそに列車は定刻どうり警笛を鳴り響かせ勢いよく
トンネル内からその姿を現した。
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