2-4(7)
「なんでだよ~ 発車ベルなしはダメでしょ、普通」
「あっ! でもループラインだからすぐに反対側の内回り線の電車に
乗れば戻れるよな、きっと」
誰もいない車内で独り言を声に出してる間に列車は次第に速度を
落とし、最初の停車駅ARに到着した。
扉が開くと同時に猛ダッシュで反対側の内回り線ホームへ向かうも
電車はまだ到着しておらず掲示板には【見合わせ中】の文字が……。
見合わせ中? どういう意味だ? 電車同士にらめっこ?
僕はとりあえず何時間もの間ホームでひたすら列車を待ち続けたが
いっこうに来る気配がなく、やむなくこのARという町で一夜を明かす
覚悟を決めた。
改札を抜け出口に向かうと目の前にはお馴染みの光景が広がっていた。
「また草むらかよ~」「しかもココのはクッサイし、も~っ!」
僕は今朝と同様必死に草木をかき分けなんとか脱出し、町の中心部に
向かうも町というよりも村が正しく、主に木材や粘土を使った家屋は
自身が暮らす村とほぼ同レベルで特に参考となる部分や新たな発見など
なかった。
しばらくの間家屋が何軒も建ち並ぶ通りが続いたが完成前の家屋が数
多く建ち並び、各家屋の裏には小さな畑があるが家屋同様まだキレイに
整備されてなく景観的には自身の村の方に軍配が上がりそうだ。
そしてさらに奥に進むと市場が現れたがお昼をとっくに過ぎてるにも
かかわらず出店の数が少なく、準備中のお店もチラホラ目に付く様子に
かなりの違和感を感じた。
期待してたのにちょっと残念だな。
それにしても野菜や果物の質がこんなに悪けりゃ絶対ウチの村じゃ
売れないな。
もしかすると7番のウチの村より幼いのかな?
……でもそれなはいな、だってさっき鳥や豚肉売ってたもんな。
そんな独り言を呟いていると背後からから無精ヒゲの男性に声を
掛けられた。
「あんた、この辺の者じゃないな、どこから来たんだい?」
「えっ……、まぁ、ちょっと遠いとこから」
「ポンチョに羽付けるなんてずいぶんおしゃれだね!」
「そう? ボクの村じゃけっこう付けてるよ。何で付けないの?」
「何でって、面倒くさいもんな」「ところでちょっと、ちょっと」と
僕はその男性に腕を掴まれ野菜や果物が乱雑に置かれた出店の前まで
連れて来られた。
「悪いんだけどちょっとの間、店番やってもらえんだろか?」
「店番っておじさんココのお店の人?」
「そう、実は忘れ物しちゃってさ。ほんの少しの間だけ、なっ!」
「で、でもどれがどのストーンと交換とか分かんないんだけど」
「ストーン? 何なのそれ?」
「ウチの村は主にストーンか物々交換なんだけど」
「ココはこれだよ」と男性は袋から小さな木の皮を取り出し僕の手の
平に置いてくれた。
「何これ? この赤文字の1ダ~ルって何なの?」
「大体1ダ~ルでココのリンゴ2個買えるよ」
「へぇ~ ストーンより軽くて便利だね、コレ!」「でもこれだった
ら2ダ~ルや3ダ~ルって書き換えたり出来るんじゃないの?」
「そんなズルい事誰もしないよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「牢屋とかはどうなってんの?」
「そんなのないよ。そもそも悪い事するヤツなんかいないよ、この村は」
「へぇ~」っと感心しきりの僕に男性は「分かんない事はお客に聞けば
いいからさ」と顔をググっと近づけた瞬間鼻がもげそうになった。
「うっ……」(歯みがきしてないのかよ)
「ワ、ワカッタヨッ」と僕は息を止めながら引き受けた。
その後いつまで経っても男性は戻って来ず途方に暮れてると、一人の
男性客に声を掛けられた。
「あれ? ベンさんは?」
「なんか忘れ物取りに行ったみたいだよ」
「じゃ、アンタ、店番してるの?」
「そう、頼まれて」
「ハハッ! アンタ騙されたんだよ」
「騙されたって?」
「それベンさんの常套手段で、そうやって人に店番さしといて今頃どっか
で寝てるよ、きっと」
「ええっ! そうなの」
「ヨソ者はよく引っかかるんだよ、お気の毒様」と男性客は何も買わずに
立ち去ってしまった。
その後もベンさんという男性はいっこうに現れず、とうとう僕はこの
出店で一夜を明かす事となった。
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