2-3(6)

 点検終了のアナウンスが中々流れない中、さすがに時間を持て余した

僕は線路を追い真っ暗なトンネル方面に近づいた。

 ゆっくりとトンネル内を覗き込むと奥の方から列車が近づく音と同時に

爆風が僕を襲った。


「うわ――っ!」「ゲホッ!」「ゲホッ!」


「な、なんだよ~ いきなり」と僕は身体中に被ったカビ臭いホコリを

必死に払い落とした。

 内回り線の電車と確信した僕は振り返り奥に見えるホームを注視したが

いっこう到着する様子がないのに不信感を覚えた。

 あれ? 変だな。

 さっきの電車はどこに行ったんだろ?

 僕はもう一度暗いトンネル内を注視すると10メートルほど先にある

右側の壁辺りから光が漏れてるのを確認した。

 何だ、あの光は? もしかするとあの右側に何かあるのかもな。

 僕は壁右側をさらに詳しく観察すると目が慣れたのか壁伝いに幅

20センチ程の足場と手すりがぼやっと浮かび上がるのが見えた。

 なるほどコレを使って向こうに進むのか。

 まだ点検終わりそうにないし同じホーム内だから発車ベルも聞こえる

範囲だな、「よし! 行ってみるか」

 僕は線路に落ちないよう慎重に暗闇の中を手すりづたいに進み続け、

光が漏れる右側に目を向けるとなんともう1つ別の改札を発見した。

 ココにもあったのか~。

 僕は少し興奮気味に改札方面に向かって走り出し、今朝と同じように

路線図に目を向けると確かにループラインだが数字ではなく今まで

見たことがない文字列で形成されていた。

 何だ、このAR、ZN、Vって? 中には意図的に消された駅もあるな。

 ソラちゃんから聞いてないってことは新発見だなこれは。

「ふふっ!」ちょっと調べてソラちゃんに自慢しちゃおっと!

 僕は大急ぎで改札を抜け階段を下り、先ほど到着したばかりの電車に

飛び乗った。

 内装はさほど変わりなく期待外れだったがやはりあの文字がどうも気に

なり扉上にある簡易な路線図をもう一度確認した。

 先ほどの文字以外にもSI、DY、NE、BAなどがあり、路線図からこの

ループラインは唯一15番駅とだけ繋がってるようだ。

 僕は分らないなりに路線図とにらめっこしているといきなり後ろの

扉が閉まった。


〈シュ――ッ〉〈バタン!〉


「えっ!? ウソでしょ……」「発車ベルは?」「まさかね……」

 

 列車はゆっくり動き出しあっという間に加速し真っ暗なトンネル

に突入してしまった。


「あ~ ぁ~ ぁ~ 助けて――っ!」


 車内に響き渡る叫び声を無慈悲にかき消すかのように列車は加速音を

鳴り響かせ次なる駅に向かって爆走した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る