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 ―再びうさぎクラブにて―


「いらっしゃ~い! ショ―ちゃん、お久しぶり!」

「おう!」と僕は一番奥の指定席に向かった。

「長い間どうしてたの?」とリカちゃんがコップを並べ始めると奥から

ミカちゃん、リンちゃんがチラっと顔をこちらに覗かせやって来た。

「良かった! ショ―ちゃんが笑顔で」と2人の笑顔が弾けた。

「ボクはそんな小さな人間じゃないんだよ!」と半笑いの僕は数日間

悩みに悩み続けた内容を話し始めた。


「実は近々ソラちゃんに会いに行こうと思ってるんだ」

「えっ!?」3人の表情が一瞬で固まった。

「だからソラちゃんがいる特区って町に行くってことだよ」

「どうやって?」

「ル、ループラインに乗ってだよ」

「前にも話したろ、ループラインって電車があるって」

「あっ、あのソラちゃんが乗って来たクルクル回るヤツね!」

「クルクルって……、まぁ、そうだけど」

「確かこの村の最寄り駅って7番だったよね」とリカちゃんが思い出した

ように話し始めるとミカちゃんが急に会話に割って入って来た。

「ココ7番駅から特区って町までどのぐらい離れてるの?」

「さぁ~」と僕は困惑した表情を浮かべた。

「さぁ~ってショ―ちゃん、知らないの?」

「うん、実はソラちゃんから大まかな事を聞いただけで路線図は

おろか電車自体どんな物なのかも詳しく知らないんだ」

「よくそんなんで行くなんて言えたわね!」と呆れ顔の3人に対して

僕はこの村に対する熱い思いをぶちまけた。

 村の理念など政治色が強めの話は彼女たちにとって退屈らしく、

3人からの意見及び質問すらなかったがトピックがいざ生活環境

など身近なシーンに及ぶと次第に3人の目が色めき立ち様々な質問を

投げかけて来た。


「ショ―ちゃんが言う涼しい風が出る機械ってどういう仕組みなの?」

「その荷物や私たちを凄いスピードで運んでくれる便利な乗り物って

実現出来そうなの?」

「出来たらいいのにね~ ショ―ちゃん、早く! 早く!」と

ノリノリの3人に対して僕は冷静に答えた。

「残念ながら仕組みが分からないんだ……」「でもだからこそ特区に

行って実際この目で見て確かめてみたいんだ!」

 

 一同納得してくれた様子に少し満足感を覚えた僕だがリカちゃんの

表情が妙に冴えないのが気になった。


「どうしたの? これから今以上に村が劇的に変化するんだよ!」

「ショ―ちゃん、ホントに大丈夫なの?」

「大丈夫って?」

「だって言ってたじゃない、ループラインには恐ろしい秘密があるって」

「あぁ、あれだろ、特区を訪れたらまず外見が変わって、記憶も抹消

されるってやつだろ。知ってるよ、そんな事ぐらい」

「外見の変化はショ―ちゃんにとってラッキーかもしれないけど

記憶がなくなるって事はもうショ―ちゃんじゃいられなくなるって

ことだよ。もうココに帰って来れないかもよ、分かってんの!」

「あぁ……、でもたまに記憶が蘇る事もあるみたいなんだ」

「そんなギャンブルみたいなこと私は反対よ! みんなもそうでしょ!」

と迫力のあるリカちゃんに圧倒された2人は「うん」「うん」と同時に

頷いた。

 

 なんだか少し嬉しい気分になった僕だが少し違う角度から彼女たち

を説得にかかった。


「さっき言った生活環境以外にも例えば10日ほど前、爆音と共に

空から光の矢が大木に当たって裂けたのいっしょに見たろ。あれだって

光の正体が分かってればヤツらから身を守る方法があるかもしんないし、

透明のオバケに家を揺らされた原因が分かれば何か対策がとれたかも

しんないじゃん。そういったことを特区で勉強して村生活に役立て

たいんだよ、ボクは。みんなならボクの気持ち当然分かってくれるだろ!」

 

 ……その瞬間店内では外で遊びに興じる村人たちの声のボリュームが

急に跳ね上がるほど一気に静まり返った。 


「分かったわよ……、ショ―ちゃん頑固だもんね」とリカちゃんが僕の

カップにいつものスイカジュース注いでくれた。

「ありがとうなっ!」とジュースを一気に飲み干すとリンちゃんが

何かを思い出し、慌てた様子で僕に問いかけた。

「ショ―ちゃん、ペナルティーは大丈夫なの?」

「あぁ、分かってるよ、ループラインに乗るたびに受ける罰だろ」

「ペナルティー受けない方法でも見つけたの?」

「いや……、でも覚悟してるんだ、この村が良くなるんだったら。そう!

誰かが犠牲にならなきゃいけないならこのボクが引き受けるよ!」と

今日一番のセリフを吐いた。(キッ、キマった― カッチョいい―!)


 ……。


「そう、なんかだか悪いわね」と3人全員が声を揃えた。

(えぇ~ うそ~ なんかリアクション薄いんですけど)

「まっ、そういうことだから今日がとりあえず最後の日なっ!」と

気を取り直し僕はもう1本ボトルを頼んだ。

 リカちゃんが奥にボトルを取りに行ってる間、ミカちゃんが不自然な

笑みを浮かべ正面からボクの真横に移動してきた。


「ねぇ、ねぇ、ショ―ちゃん、付き添いって必要じゃない?」

「付き添い? いらないよ、そんなの」

「私、いっしょに行ってあげてもイイよ!」

 すると奥からボトルを持ったリカちゃんが「何言ってんの、ダメよ!」

と彼女の横に腰掛け釘を刺した。

「アンタなんかが付いてったらショ―ちゃんが迷惑するでしょ」

「私だって色々興味あるもん、いいじゃん一人ぐらい」

「私、通訳できるのよ!」

「えっ! 何語が出来るの?」

「鳥語よ! ピョ、ピョ、ピョって! ふふっ!」

「また、始まった、ショ―ちゃん、無視していいわよ」と呆れ顔の

リカちゃんが彼女の口を塞ぐような仕草をした。

「ホントだもん、私、鳥と話せるんだから」と若干スネた様子の彼女を

よそにリカちゃんはボクの顔をまじまじ見始めた。

「な、何だよ、気持ち悪い」

「今日でショ―ちゃんの顔見るの最後だもんね、しっかり覚えてと

かなきゃなって」

「あぁ、特区に入ると姿形が変わるらしいからな」「ところでさっき

どさくさ紛れに言ってたけどボクってそんなにブサイクなの?」

「えっ! じょ、冗談よ、冗談!」「さっ、そんなことよりみんなで

ショ―ちゃんの健闘を祈って乾杯しましょ!」と彼女はみんなのカップ

に新しいジュースをなみなみ注いだ。

「必ず戻って来てね! みんな待ってるんだから、約束よっ!」

「あぁ、約束するよ!」


『カンパ――イ!』


 ボクは最後になるかもしれないこの日をしっかり胸に刻み、明日の

出発に備えた。

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