ループラインの軌跡 パート2

リノ バークレー

1-1(1)

 ―真夏のうさぎクラブにて―


「リカちゃ~ん、スイカのボトル出してくれる!」

「大きさは?」

「2分の1バージョンでいいよ」

 リカちゃんは奥からボトルを倒さないように気を配りながら運び出し、

テーブルの真ん中にそっと置いた。

「リカちゃん、これフルボトルじゃんか」

「いいの、いいの私たちも飲むから!」

「そう、いいの!」「いいの!」とまるでリカちゃんにシンクロするかの

ようにミカちゃん、リンちゃんは口を揃えた。

「なんでだよ! 自分の分は自分で用意しろよな~ まったく」

「はい、はい、ショ―タ村長はそんなセコイこと言わないの!」

「いや、ボクはだね~ ただ……」と言いかけると女の子たちは一斉に

クスクス笑いだした。

「な、何だよ」

「ボク」だって。

「いや、村長になったからね、『オレ』は封印したんだよ」

「ハイ、上品な村長、これもどうぞ」と今度はミカちゃんがおつまみを

持ってきた。

「こ、こんなの頼んでないぞ!」

「いいじゃない~ みんなで食べれば」と3人は再び笑顔で口を揃えた。

「ショ―ちゃん覚えてる? 以前ソラちゃんがココで話てた事」

「何だよ?」

「ほら、ソラちゃんの町じゃお客さんが女の子の分ご馳走するのが普通

だって言ってたじゃない」

「そういう事だけはしっかり覚えてるんだな、まったく」

 

 ……一瞬の間が空きリカちゃんがボソッと呟いた。


「ソラちゃん、どうしてるのかな?」

 

 先ほどまでの和やかな空気が一変し、なんとも言えない重い空気が

お店全体に広がった。


「ソラちゃん、ひなの事で相当落ち込んでたもんね……」

「あぁ、ソラちゃんかなり責任感じてたみたいだし、会うたびに

やつれて声も掛けられなかったもんな、気の毒で」

「そう、そう、もう前とは別人って感じだったよね」とリンちゃんが

伏し目がちにボトルを指で上下にこするとリカちゃんがせきを切ったかの

ように話し始めた。

「でもさ~ ソラちゃんが来てくれて良かったって思わない?」

「うん! ちょっと他のみんなとは色々あったみたいだけど

私たちとは仲良かったし―、特にひなはソラちゃんと暮らして

ホント変わったもんね」

「それだけじゃないわよ、ストーンが流行って買い物がラクに

なったし、色んなお店が増えて前より楽しくなったでしょ!」

「うん、確かにそうかもね!」

「あっ、それと牢屋ができて、悪いヤツ減ったもんね!」

「あれ? どうしたのショ―ちゃん、そんな怖い顔して」

「あのさ~ それって実際提案したり実行に移したのこの僕だよ」

「でもソラちゃんに相談に乗ってもらってたんじゃなかったっけ?」

「ま、まぁ……確かにそうだけど」

「あ~ぁ、ソラちゃん戻って来てくんないかな~」

「それって、僕じゃ役不足ってことかよ!」

「そ~んなこと言ってないじゃない」

「そう聞こえるんだよ!」

「何怒ってんのよ~」と困惑した様子の女の子たちをよそに僕は

ストーンでお会計を済ませそそくさと店を出た。

 

 確かにここ最近ずっと自分自身に対しイラついていた。

 それはこの村の長として何か改革に取り組んでいるのかと自身

問いただすと答えはノーだからだ。

 そんな僕はついソラちゃんがいた頃と今を比べてしまう。

 すると明らかにあの頃の方が事の良し悪しは別として村全体が激しく

変化した。

 もしかするとうさぎクラブの女の子たちはあの頃のような過激な

生活スタイルの変化や更なる刺激を望んでいることを僕に直接言わず

遠まわしに伝えたかったのかもしれない。

 僕も村の長として今のままでいいとは決して思ってはいない。

 僕だって日々色々と考えているつもりだ。

 そう! まずは薬の研究だ。

 ソラちゃんが住んでた町みたいにお腹を切り開いて治すことは怖くて

ムリだけどせめて万能な薬が完成さえすれば苦痛からは解放されるだろう。

 それだけじゃなくこの暑さを和らげるような装置や人や物を運ぶ電車の

ような移動手段、挙げればキリがないけど…… 残念ながらソラちゃんの

町のように完成させる自信がいまひとつ持てない自分がココにいる。

 環境整備以外にも隣の村から悪いヤツらが攻めてきた場合の事も

しっかり考えとかなきゃいけないってことぐらい分かってるよ!

村長としてさ。 

 でも中々行動に移せないのはやっぱりサンプルみたいなものがないから

なのかもしれない。

 ソラちゃんから聞いただけでは実際電車とはどんな形なのか、

どのような仕組みで動くのかなど想像すらつかない。 

 いっそループラインにでも乗ってソラちゃんがいる特区という町に

思い切って行ってみるのもアリかもな。


 ……僕は数日もの間悩み続けついに決断した。

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