間章 マルカスの六つ子ラジオ



 マルカスの六つ子ラジオはその貴重さゆえに王家に奉納された珍しい作品である。


 製作者はセネイア・ロンドヴィル・マルカス。


 父親の代からリア家の領地に移り住み、旅地通信社の技術工として勤めていた。

 病弱な妻を早くに亡くし、娘と二人で暮らしていたそうだ。


 革命の折、国王に謁見するために登城していたそうだが、混乱の中で消息を絶っており、その行方はいまだわかっていない。






 彼の作品の中でも、六つ子ラジオは集大成と言っていい出来になっている。



 まず一つ目のラジオ。

 これはその昔、旅地通信社の初代社長が他星に行ったときに持ち帰ったラジオを再現している。

 何百年も前の製品の再現は、新しいラジオを作るよりも難しい。なにしろ資料はリア家に伝わる初代のメモ書きしかないのだから。

 それを、見事に再現してみせたのだ。



 次に二つ目のラジオ。

 こちらは初代が手に入れたラジオを元に試作したラジオを再現したもの。

 未知の製品であるラジオを分解し、記録をとり、ルーシャ星で手に入る物で作られたラジオ。

 このときからラジオを覆うカバーは木製であった。



 次に三つ目のラジオ。

 ラジオが世に普及した全盛期に作られたラジオの再現。

 今から百年ほど前の製品で、よく「究極の完成形」と言われ、今でもそのデザインは復刻版として出回ることがある。

 こちらは当時の素材まで完璧に模倣したものになっている。


 次に四つ目のラジオ。

 五十年ほど前に流行った録音機のくっついているタイプのラジオ。

 その大きさから置く場所を選び、十年ほどでなくなってしまった。今では博物館と旅地通信社の本社に残されているのみになっている。


 次に五つ目のラジオ。

 現在一番主流なラジオの豪華版。ノートサイズでどこにでも持ち運べる軽量型。

 普通のラジオよりも薄く、鞄の中にも入る。さらには普通より少量のルニード石で安定した通信ができるのが特徴である。


 終に六つ目のラジオ。

 まだ世のどこにも出されていない、手のひらサイズのラジオ。

 ポケットに入れて持ち運ぶのも可能である。

 あまりの小ささにマルカスほどの腕のいい職人でなくては組み上げられず、旅地通信社社内ではたびたび製品化の会議が開かれているが、実現には至っていない。



 これら六つのラジオに共通しているのは外見、つまりは木製のカバーがすべて同じデザインの寄木細工であること。

 それから、六つすべてにルニード石の中でも貴重なパル山(良質で美しいルニード石の採掘地)の共石が使われていること。


 未だ共石の効果が一般に知られていないなか、常に相互通信が可能なこのラジオたちは大きな価値と秘匿性を併せ持っているのだ。

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