急転

第六の月 帽子の日


『アーヴェー・アーヴェー。

 こちらは旅地通信社記録係です。どうぞ。』





「……アーヴェー・アーヴィー。


 ――あの、一つ質問しても?

 あなたは誰ですか? どうぞ。」



『アーヴェー・アーヴェー。

 あ、リディアがいつも言っている方ですね。


 初めまして、リディア・マルカスの友人でポインセチア・ルーディと申します。

 わけあって記録係の仕事を引き継ぎました。


 ――なんでも質問してください。どうぞ。』



「アーヴェー・アーヴィー。

 では遠慮なく。


 リディアさんはどうしたんですか?

 ――わけあって、のところはなんとなく想像ができます。

 彼女の出自と、ラジオの件ですよね?


 それで、どうして彼女がいなくなるなんてことになるんですか。


 どうぞ。」



『アーヴェー・アーヴェー。


 本当に、なんでもご存知なんですね。

 リディアの言っていたとおりだわ。



 確かにリディアは最後の王族として、新政府から「マルカスの六つ子ラジオ」を捜すように言われていました。

 その調査のために、旅地通信社からも調査団を派遣して、宇宙で情報を集めていたのですが。

 残念なことに、そのうちの一人が新政府のスパイだったんです。



 その人は旅地通信社から行方をくらませました。

 その後、いつの間にかリディアと連絡を取っていたようで、彼女を連れ去ったんです。

 政府側に囚われていることまではわかっているのですが……。


 事情が、事情ですから。


 新政府側はリディアを傷つけることができません。その血を失ってしまえば政府は二度と神殿と手を組めなくなるので。

 とりあえず第十の月のルーシャの日までは安全が保障されています。


 リディアも、賢い子なので絶対に自分の意志でついて行っています。

 何か意図があるんでしょう。



 正直、リディアが今の状況をどう捉えているのか、――王族としての義務感で動いているのか、それともそんな押しつけられたものを煩わしく思って、さっさと終わらせるために動いているのかはわかりませんが――でも、この状況を動かせるのが彼女だけ、というのも事実なのです。


 なので、私たちとしては彼女から何らかの行動を示されればすぐに動けるように備えることしかできません。


 あなたにも、早めにルーシャ星まで来てもらえると助かります。

 ラジオの所在はもうすでにすべて把握できましたので。あなたの持っているラジオが到着すれば、こちらも動くことができます。

 どうぞ。』




「アーヴェー・アーヴィー。


 わかりました。

 ……とはいえ、早くてもそちらに着くのは九月の後半になると思います。

 今いる星系で磁気嵐が起きていて、しばらく動けそうにないので。

 なるべく早く動きますから、少し待っていただけますか。

 どうぞ。」




『アーヴェー・アーヴェー。

 

 自然現象は、……仕方ないですね。


 わかりました。首を長くして待ってます。

 それでは、いずれルーシャ星で。


 通信終わり。』

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