きまぐれ
第六の月 焚火の日
「やあやあ、神さまじゃよ。
――おや。あの子はおらんのかの。
ついに毒牙にかかってしまったのか。かわいそうに。
ほっほっほ。冗談じゃ。もちろん知っておるよ。
彼女の周りの因果が動き始めたようじゃのお。
大丈夫じゃよ。あの子のことは、あの子の『本当の望み』を知っている者の助けを得て達成される。
今はわからんじゃろうが。――もしも、航路に悩む者が現れたなら、それを導いてやりなさい。
あなたの役目は、それで十分。
ほほ、せっかっくだからなにか面白い話でもしようかのお。
宇宙には出たことがあるかの。
なに、規制がかかっていて一般人は出られない?
――ほう、ルーシャ星は人民の流出を恐れているようじゃの。
もうとっくに宇宙進出の準備は整っておったのにのお。
宇宙は広い。普通の速度で移動すれば、移動できる範囲は微々たるものじゃ。
小さき生き物が一日をかけて人の一歩ぶんを進むようなものといえばわかりやすいかの。
けれども。それではつまらないであろう?
せっかく面白おかしく作った――ゲフンゲフン。真面目に、至極真面目に作ったこの宇宙も、誕生から長き時が経ちながら、いまだに誰も見ていない景色が多すぎる!
だから、手っ取り早く移動できる手段を考えたんじゃ。
ワープホールは知っているかの。
時と場合によってはひとっ飛びに長距離を移動できる代物でな。宇宙船ぐらいなら丸ごと通れる。
それを各地にばらまいてみた。
もちろんどれがどこにつながるなんてのはわからんぞ?
中には時間によって切り替わったり、はたまた不定期に、ランダムな場所につながるワープホールも存在している。
それもわしが作ったんだがの。
だってそうじゃろう? すべてがすぐに、明快に、とても親切に解ってしまうだなんて、退屈以外のなにものでもないからの。
というわけで、そのうち我ら神の存在に気がつく者も出始めたわけで――というか我慢ができずに出しゃばってしまったわけじゃが――やがて神話が生まれた。
不思議なことに、宇宙進出が進まれば進まるほど、その星固有の神話は失われていく傾向にあるようじゃの。
――いずれはルーシャの神話も消えてしまうのかのお。
あの姉弟は結構面白いやつらだったが。
おっと。少し喋りすぎたかの。
お嬢さん、運がいいのお。
生ける神話、最後の活躍をその目で見られるのだから。
それじゃあの。達者で過ごせよ。」
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