あなたへ

第五の月 飴の日



「じゃあ、再生するね。








『アーヴェー・アーヴィー。

 ……で、合ってたかなあ。


 この通信が届いている頃には、もう私の住んでいる星はないかもしれない。

 だから、その前にこのラジオを届けてくれた人にお礼を伝えたくて。


 リアと名乗ったあの男の人に、この通信が届いていますように。


 その人は私の星の近くにワープして来て、船の故障で不時着したの。

 ひょろっとした長身の男の人で、ルーシャ星のしがない貴族だって言ってた。


 私は知識がないからルーシャ星なんて知らないし、そもそも母星以外に人が住んでるなんて初めて知ったわ。


 その人はね、いろんなところを旅してるんですって。

 国のお金を使って、調査って名目で。

 もちろん、彼が持ち帰った技術で国が発展しているから許されてるらしいけど。


 ちょっと前に持ち帰ったこの鉱石ラジオが彼の星にある鉱石と相性が良かったみたいで、生産が軌道に乗ってきたんだ、ってうれしそうに話してたの。


 だから、それを興味深そうに聞いてた私に、彼はラジオをくれたのよ。



 彼が帰った後、この星に隕石が落ちてくる可能性が高まって。

 みんなで移住することになったの。

 今日はその出発日。私は平民だから結構後ろのほうになっちゃった。

 後一週間で、隕石が来るんですって。


 なんだか信じられないわ。




 宇宙に出るってなって、真っ先にルーシャ星のことを調べたわ。

 移住出来たら、なんて考えたけれど……。ぜんぜん甘かったわね。



 なんと、ここから普通航路で千光年離れてるんですって!

 到底たどり着けないわ。

 それくらい、遠い存在だったの。




 だから、この通信を聞いている誰かがいたら、彼に会うことができる人がいれば、伝えてほしい。

 私、このラジオをもらえて、あなたとお話ができてよかった、って。




 最後に、彼から聞いた面白い話、教えてあげる。

 通信の最初につける「アーヴェー・アーヴェー」「アーヴェー・アーヴィー」の意味。


 ルーシャの古い言葉で、騎士の誓いの言葉なんですって。

 騎士が主君に誓いを立てるときは「アーヴェー・アーヴィー」。

 主君が誓いを了承し、許すときは「アーヴェー・アーヴェー」。



 みんな、どこかで誓いを立て合っているのね。




 話したいことはこれで終わり。

 じゃあ、彼によろしく。

 通信終わり。』










 ……以上がぼくの星に五百年前から伝わっているロマンチックな通信の録音です。



 旅地通信社の人につながって、真っ先にこれを思い出しちゃって。震えちゃいました。

 あなたの会社がルーシャ星にあるのは、鉱物ラジオを持っている人ならだれでも知ってますからね!



 もちろん、もう彼女も彼もいないんだろうけど。

 彼女の伝えたかった言葉が、子孫の人でもいいから伝わってくれればうれしいなあ。


 ぼくもこれで通信終わり、です。

 おやすみなさい。それからよろしくお願いします、記録係さん。」





『社長と弟おじさまに伝えたところ、ご先祖様のお話に赤面しながら震えてらっしゃいました。 記録係 リディア・マルカス』

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