再会の約束

第五の月 紳士の日




「アーヴェー・アーヴィー。

 

 やあ、リディア。元気だった?


 こっちはなるべくまっすぐポロ星系に向かってるよ。

 なんてったって貴重なラジオが二つも手元にあるからね……。壊したら怖いからさ。早めに持って行きたくなった。


 それにしても、不思議だねこのラジオは。

 ぼくの手元にあるのは小型のやつが二つなんだ。それもトランシーバーぐらいのやつ。

 リディアのは動かすような大きさの物じゃないよね。

 それぞれ特徴は違うけど、意匠は同じなんだよね。寄木細工の箱に入ってて。


 ぼくも『視た』だけだけど、六つそろってるところは壮観だろうなあ。

 ああ、もうすぐ六つ揃えられるかな。


あ、また忘れてた。どうぞ!」







『アーヴェー・アーヴェー。


 ひさしぶり。私は相変わらず、部屋で誰かの通信が届くのを待ってます。

 ちゃんと連絡してくれてうれしいわ。


 ラジオのことだけれど、旅地通信社の中で五つまでは所在がわかっているの。

 あと一つもルーシャ星のどこかにはあるらしいのだけれど。まだ見つかってはいないわ。

 どうにかルーシャの日までに見つかるといいのだけれど。

 どうぞ。』







「アーヴェー・アーヴィー。


 そうか。そんなにもう所在がわかってるんだ。

 六つそろうのが楽しみだね。



 ところで、ルーシャの日っていつなの? けっこう近くなのかな。

 だったら早くいかないといけないよね。どうぞ。」







『アーヴェー・アーヴェー。


 ルーシャの日はね、第十の月の真ん中あたりよ。

 まだまだ先だから安心して。


 それにしても、今どのあたりにいるの?

 私、ドン・ブラスコ星系図を買ってみたの。

 今までこんなにいろんな人と通信をしているのに、宇宙のどこにその人の星があるのか、全然興味がなかったから。

 ……そんな余裕もなかったし。


 最近になってドン・ブラスコ星系図を見てみて、面白いな、と思ったの。

 これ、百年前の地図なのね。

 国が変わっても星の位置はそうそう変わらないでしょう? だからまだ現役で使えるんだわ。

 でも、世の中って変わるものだから。

 ルーシャも、王国から共和国になっているし、他の星だっていろいろあるでしょう?

 そろそろ更新してもいいんじゃないかな、と思うの。



 ……まだ誰にも言っていないの。秘密よ?

 私、宇宙に出られるなら、いろんなところを旅しながら地図を作ってみたい。



 鉱物ラジオで通信しながら、新しい地図を作るの。もちろん自分で航路を確認しながら。

 たまに寄り道したりしながら。


 そんなふうに、自由気ままに……。



 ――まだ、そんなことできないけど。

 私には責任があるから。


 今度のことが終わるまでは夢のまた夢ね。


 長々と話しちゃった。どうぞ。』






「アーヴェー・アーヴィー。


 …とってもいいと思う。

 確かに今の宇宙は開拓されている場所に対して知られていない場所が多すぎると思うよ。

 ドン・ブラスコ星系図が現役なのも納得さ。

 星系図に載っていないところは辺境、なんてことはないんだ。むしろ発展しているところもあるくらいだよ。


 もしもルーシャ星を飛び出す時は言ってよ。その旅、ぜひついて行ってみたいから。


 新しい地図、楽しみにしてる。どうぞ。」



『アーヴェー・アーヴェー。


 ありがとう。考えてみる。


 ――ところで、いつも私ばかり楽しく会話をしてしまって申しわけないのだけれど。

 まだ、あなたの名前を知らないの。

 ほら、あなたはいつの間にか私の名前を知っていたから。それに、まるで昔から知っているかのように話すでしょう? もうとっくにあなたの名前を知っている気になっていたの。


 よければ名前を教えてもらえない?


 どうぞ。』





「アーヴェー・アーヴィー。


 そっか。そういえばそうだったね。

 ごめん。ぼくが君の名前を知っているのは、勝手にラジオの記憶を『視て』いたからなんだ。

 君のお父さんが、どれだけ君と『六つ子ラジオ』に愛情を注いでいたか、知ってしまったから。

 親戚の子ぐらいの気持ちで接しちゃってたな……。ごめんなさい。

 ぼくらまだ、お互いの顔も知らないのにね。



 ぼくの名前は、実はちゃんとしたものはないんだ。

 もちろん、親からもらった名前はあるけど、それは身内用の名前だから。


 って言ってもぼくらの星の風習だったから知らないよね。

 ぼくらの星では、行った星の人にあだ名をつけてもらうんだ。それがぼくの名前になる。

 星ごとに名前が違うんだ。

 この能力のこともあって、星に愛着がわくのが早いからね。一日いれば現地民並みに郷愁が湧くよ。


 だから、――今後、ちゃんとぼくがルーシャ星にたどり着けたら、ぼくの名前をつけてほしい。

 ルーシャ星のぼくだけの、素敵な名前をね。

 お願いね、リディア。どうぞ。」







『アーヴェー・アーヴェー。


 そう、なのね。

 不思議な風習だわ……。



 わかったわ。考えてみる。

 だから、必ず会いに来てね。どうぞ。』






「アーヴェー・アーヴィー。


 うん。必ず会いに行くよ。

 それまで元気で。また連絡するよ。

 今度は寄り道しないように!



 じゃあまた一ヵ月ぐらいしたら。

 通信終わり!」


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