彗星雨
第四の月 歌の日
「アーヴェー・アーヴィー。
こんにちは、記録係さん。
『こんにちは』ってことはそっちは今昼間かな。
懐かしいなあ。
ぼくらはね、移民船で居住できる星を捜しながら旅をしてるんだ。
といっても出発したのは十四世代も前の話でさ。
定住できそうな星もあることにはあるんだけど、みんなこの船に慣れちゃってるからなあ。
ぼくも一時期、ある星に留学してたけど、結局生まれ故郷のこの船に戻ってきて仕事をしてるんだ。
今日は流星雨が綺麗だよ。
あ、星に住んでる人は見たことないかなあ。
そっちだと彗星って遠くに尾を引いているようにみえるだろうから。
ぼくたちの船からは、もっと近くの彗星が見えるから、ちょうど雨みたいに上からふりそそぐのを見れるんだ。
もちろんその場にとどまると石にあたって一巻の終わりだから、都度回避しながらなんだけど。
どうしても航路上に彗星があるときはいつもそうしてきたんだって。
無理に彗星をどけようとしたり、かといって大回りをして時間を無駄にしないように。
先人の知恵だねえ。
そのおかげで、ぼくらはきれいな彗星雨を見られるんだ。
昔、彗星に見とれて船を壊しそうになった船長の話とか聞きたい?
それよりロマンチックな話のほうがいいかな?
そっちの星に、流れ星にお願い事をする文化はあるかな。
ぼくらの船には、小さい子に聞かせるおとぎ話でこんなものがあってね。
流れ星……この流れ星は彗星じゃなくて、星に落ちる火球のほうね。
あるとき、流れ星に乗って王子様がやってきました。
王子様は他の星から逃れて来て、いつか自分の星に帰りたいと思っていました。
その星には、不時着した船の乗組員たちが村を作って暮らしていました。
王子を見つけたのは、船長の娘さんでした。
娘さんは大けがをした船長の代わりに船員たちをまとめていました。
星は未開の地で、船員たちは船を修復できる資材を捜しながら、未知の生物の恐怖におびえながら生活していました。
はっきり言って、王子の面倒を見る余裕はなかったのですが。
娘さんが責任を取ると言って、王子を保護しました。
王子は星の探索を買って出て、村人から徐々に理解を得ていきました。
娘さんたちより王子のほうが、この星の環境に適していたのです。
やがて王子は、この星の「神」と呼ばれている化け物に出会いました。
倒さなければ、村の人達が全滅してしまうかもしれない。そのくらい強い相手でした。
王子は七日七晩、化け物と戦いました。
死闘の末、王子は化け物を倒します。
しかし同時に、王子は「神」から呪いを受けてしまいました。
この星にいなければ死んでしまう呪いです。
王子は自分の星に帰れなくなったのを嘆きましたが、呪いと共に生きていくことを受け入れます。
娘さんも、そんな王子といっしょにいることにしました。
いっぽう船員たちは、順調に船の修復を進めていました。
なんと王子の倒した化け物の鱗が船の材料として適していることがわかったのです。
船員たちは張り切って船を直し、ついに出航できるまでになりました。
さあ宇宙の旅に出るぞ、というところで、村は二つに分かれていました。
このまま船に乗って宇宙の旅を続けようという者。
王子と娘さんと一緒に星に残って、ここで暮らしていこうという者。
結局、人々は二つに分かれました。
出航する船員はとりあえず王子の故郷を目指して。
星に残る人々は、王子と娘さんと共に星を開拓して、やがて彼らを追いかけようと。
いつかまた、愛しい人に巡り合えるように。
流星雨を見ると、みんなそうやってお願いをするんだ。
これがぼくらの船の成り立ちです。
本当の話なんだよ?
実際、ぼくの行っていた留学先っていうのが、王子と娘さんが開拓した星って言われてるんだ。
どんな暮らしをしているのか見るぐらいにするつもりだったんだけど、ぼくの娘さんが見つかっちゃったから、二人で船に移ったよ。
今、この船は王子の故郷に向かってるんだ。
何代も続く、決まった航路なんだ。
二人は結局星から出られなかったけど。
思いぐらいは、持って行ってあげられるはずだからさ。
長々と話しちゃったね。
記録係さんも、流星を見たらお願いしてみるといい。きっと思い人に巡り合えるから。
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