期せずして暗躍
第四の月 剣の日
「アーヴェー・アーヴィー。
記録係さん、おひさしぶり! 巨人のいる星を出て観光惑星に来ている人でーす。
ははは。元気だった?
君の星まであと何光年かな。
ふふ。いろいろ寄り道してるからなかなか届かないや。
今回も、行く気はなかったんだけど、成り行きで観光惑星まで来ちゃった。
観光惑星って知ってるかな? 元々は人の住んでいない星だったのだけれど、最近になって人が住むようになって、環境改変が終わったところぐらいの星でね。
そこはまだ文化と呼べるものがないから、毎年違ったコンセプトで自分たちの文化を決めてるんだって。
今年は宗教色強めな設定らしいよ。
おっと。設定なんて言ったら怒られちゃう。
それとは別に、毎年入植記念日の前後はお祭りを開催していて。
年によってコンセプト通りの内容に変わっていくんだ。
だから、今年は聖人の生誕祭ってことになってた。
何百年も前に活躍していた聖人だって。
入植が始まったのが最近だって知っていれば、すぐに気がつくんだけどね。
ただ、文化の作りこみはすごいんだ。まるで何千年と続いてきたみたいな工芸品とか、祈りとか、踊りとか。言語や文字までそれっぽくなってるんだよ。
前にも何回か来たことあるけど、毎回別の星に来たんじゃないかって焦るんだ。
今回ここに来ようと思ったのは、ちゃんと理由があるんだ。
巨人のいる星で出会った商人のおじさんが、観光惑星の競売に出るって言ってて。
今年の目玉はラジオなんだって。
気になるでしょ?
どこかの商人が持ちこんだみたいだけど、「ある星の一級職人が作った美しくも繊細なラジオ」とか言われたら期待しかないよ。
で、昨日、その競売があったから行ってきた。
大きな会場でさ。ぼくは商人の荷物持ちみたいな感じだったから参加資格がなかったのがちょっと残念。
でも、見てるだけでも見ごたえがあったよ! チャリティーみたいなものだから、商人たちもいつもより羽振りよく値段を釣り上げていくから見ていて楽しかったなあ。
最後のほうになってきて、ついにラジオが出てきた。
ぼくは見た瞬間、がっかりしたよ。
確かに、外見は「マルカスの六つ子ラジオ」だったけど。中身は最新式のラジオになってたんだ。
見る影もなくなった姿に頭を抱えすらしたよ。
……ああ、ぼくはすべてのラジオを『視た』ことがあったからさ。すぐに見分けはついたよ。
別に本物じゃないならどうでもいいか、と思ってぼーっと競りを見てた。どうせぼくの手の出せる金額はとうに超えてたしね。
でも、面白いのはここからだったんだ。
ラジオが競り落とされた、その瞬間さ。
突然、会場に煙幕が撒かれたんだ。
びっくりしたよ! みんな襲撃だって逃げ出して行ったし。
その中でも、見たことない制服の騎士っぽい人たちがすぐにステージに駆けだしてきて、素早く犯人を追いかけ始めたんだ。
どこにあんなに優秀な部隊を隠してたんだ? ってくらい素早く、的確に動いてたな。
ぼくと商人は逃げる人に押しつぶされそうになりながらしばらく隅っこでじっとしてた。
逃げ出したほうが人に飲まれて圧死しそうだったし。じっさい、騒ぎが収まった後はけが人がたくさんでてた。
その頃にはもう、舞台の上には誰もいなくなってたし、ラジオもなくなってた。
ぼくらは仕方ないから帰るか、って会場を出たよ。
そのへんをとぼとぼ歩いて、バザールを見ながら宿に戻ろうとしてた時にさ。
偶然、見つけちゃった。
『六つ子ラジオ』の、中身。
ふつうに古物商に売られてた! びっくりした!
急いで、でも怪しくない程度に値引き交渉して古物商からラジオをひったくってさ。宿に帰って自分の持ってるやつと交信させてみた。
ちゃんと双方向からつながったよ。『共石』の使われた本物で間違いない。
でもそうなるとさ。外見も欲しくなるじゃん?
ぼくはラジオを『視』て、犯人たちの顔をあぶり出して街に出た。
自分の能力をこんなに悪いことに使ったのは初めてだよ。
犯人はね、新しいものを良しとしない旧宗教派の信徒たち――もちろん設定だよ?――で、別の星からもたらされた最新技術であるラジオを世の中に広めるわけにはいかないって盗んで壊すつもり……っていうシナリオがあったらしくて。
『六つ子ラジオ』だから狙っていたのかはわからないけど、あの騎士の人達も星のシナリオの登場人物なのかな?
だとしたら今頃みんなでうまくいった! って酒盛りでもしてないかなあ、と思って目立たない酒場を中心に探してみた。
いたよ。あの箱を隅に追いやって飲んでる連中が。
みんな黒装束でいかにも怪しいって感じなんだけど、街の人達もわかってるみたいで特に気にせず話してたなあ。
で、そのうちの一人に声をかけた。
観光で来てるんだけど、その箱譲ってくれない? って。
あたかも昼間のことは知らないていで。
相手も持て余してたみたいで、中に入ってる最新式のラジオをくれれば外見はあげるって言われたから、ぼくも二つ返事でもらったよ。
寄木細工が好きでね! とか適当なこと言いつつ。
聞いてみたら本当に今日のあれはシナリオ通りだったんだって。でも騎士の人達は予定になかったから焦ったって。
本当にこのラジオが欲しかった人たちだったんだね。たぶん。
申し訳ないけど、『六つ子ラジオ』はぼくが保護させてもらった。
この一日がよっぽど面白かったみたいで、連れの商人が旅地通信社までラジオを送ってくれるって。
そのうち商人ごと行くと思うから、しっかり受け取ってね。
たぶんぼくより早く着くよ?
ははは。本当に楽しかったなあ。興奮が収まらないや!
あ、あとね。
商人も鉱石ラジオのことは知ってて、ぼくにいろいろ作法を教えてくれたんだ。
こうやってずっと一人でべらべら喋ってたけど、ちゃんと通信のルールで相手に会話をバトンタッチしてなかったんだね……ごめんなさい、記録者さん。
まだ眠れそうにないから、もうちょっと話してもいいかな、記録係さん。
どうぞ!」
『――ふふっ。
アーヴェー・アーヴェー。
ごめんなさい、笑いが止まらなくて……。
その騎士さんたち、私の知り合いかも知れなくて。ふふっ。ずっとあなたを捜してるはずなのに、こんなに近くに……っ、だめ、笑っちゃう。
ごめんなさい。代わりになにかお話してくれませんか?
あなたからの通信が、最近本当に楽しみなの。
私はこの星から出たことがないから。
もっと、いろんな星の話を聞かせてほしい。
どうぞ。』
「アーヴェー・アーヴィー。
じゃあ、ご要望にお応えして!
ぼくのとっておきの話をしよう。ある星に空を自由に飛ぶ鳥の人っていう人たちがいてね―――――――――――……」
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