おいてけぼり

第三の月 宝石の日


「アーヴェー・アーヴィー。


 はじめまして、記録係さん。

 はは、星とか芸が細かいですね。設定ちゃんとしてるんですねー。 


 ねえ、聞いてください! 今日世界一周から帰ってきたんです!


 ははは、信じてないでしょう。

 





 ……実は、周りは誰も信じてくれないんですよ。

 本当に一周してきたのに。

 そもそも私が世界を一周しようと思ったのは、ある幻の島を捜すためだったんです。


 私の大好きな童話に、世界を旅する島、というのがあるんです。

 その島には歳をとらない人たちが住んでいて、毎日魚を釣ったり野菜を育てたりしながらのんびりと暮らしているんですって。

 そこにいると歳をとらない代わりに、親しい人たちと別の時間で生きることになる。

 

 童話の主人公は、ヨットで漂流してその島に流れ着いて、何も知らないまま久しぶりに家に帰ってくるんです。

 そうしたら、家どころか町並みもすべて変わっていて、知ってる人も誰もいなくて。

 島に戻ることもできず、一人さみしく余生を送るんです。




 悲しすぎるんであんまり人気ないんですけど、なぜか小さい頃の私はこの話が大好きで……。


 晴れて成人したので、あの島を捜しに旅に出よう! って思ったんです。



 一年前、私は童話の主人公みたいにヨットに乗って、生まれた大陸を出ました。

 楽しかったです。学校で操船を学んでいたこともあって海には慣れてましたから。地図を見ながら順調に隣の大陸までは行けたんです。

 その先で、嵐に遭いました。

 

 季節外れの渦だって誰かが言ってました。大丈夫だろうと思ったんですけど、なすすべなくヨットが転覆して。

 いやあ。もう命はないと思いましたよ。


 けど、助かったんです。

 あの島に着いて。


 本当にのどかな島でした。

 一周するのに半日もあればじゅうぶんくらいな島です。

 島には二十人ぐらいの人が住んでて、それぞれ魚を獲ったり野菜や果物の世話をしたり、布を織ったり。大工仕事をしている人もいました。

 集落は一つだけしかないので、みんなで共同生活です。


 私は同い年くらいの男の人の家にお世話になりました。

 だいたい半年くらいかなあ。

 島はね、確かに動いてました。

 「村長」って呼ばれてる人がいて、その人の言葉で島の速度を操っているんです。

 いい漁場があればゆっくり進んで、嵐が近ければ速度を速めて回避したり。

 

 でもこの島、おかしいところもあったんです。

 

 まずは子供がいない。

 一番若い人出だいたい私とおなじくらいの年齢の人で。


 あとは、夜が来ないんです。

 島がぐるぐるまわってるから昼のところにしかいないんだ、って言ってたけど本当なのかな。

 

 それに、童話みたいな「歳を取らない」ってことはない、って言ってました。

 みんなこの島の生まれだって。

 その時だけは、ちょっと島の人達が怖くなりました。



 私は自分でヨットの代わりになる船を作って、その島を出ました。

 いつの間にか、私の故郷の近くにいました。

 ちゃんと世界一周をした場合の航路に沿ってね。


 帰ってびっくりしました。本当に時間が進んでたんです!

 それも二百年も。

 

 


 元々、孤児だったんで、お世話になってた親戚とかから疎まれてたし。仲のいい人もいなかったからさみしくはなかったけど。

 今、私がお世話になってる老夫婦は「すごく田舎の離島から来た子」って理解してもらってます。

 まあ、間違ってはないでしょう。


 このラジオはその老夫婦が――宿屋をやってて、そこの手伝いをしてるんですけど――初めてのお給料と一緒にくれたんです。



 不安がないっていえばちょっと嘘になるけど。

 でも、新鮮なことばかりで楽しいです。

 この生活が嫌になったら、またヨットで旅に出ようかなあ。


 ははは。冗談ですよ。



 でも、もっと勉強して、いつか恩返しをしに行かなきゃ。








 ありがとうございました。なんだかスッキリしました。

 じゃあ、通信終わり! ――で、合ってるのかな。



 本当にありがとうございました。」

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