背中
第三の月 恋人の日
「アーヴェー・アーヴィー。
おはようございます、記録係さん。
こちらはオハラ星、朝の六時です。
早く起きちゃいました。
そちらも朝だったらごめんなさい。
今日は、ちょっと怖い夢を見ちゃって。
夜、こわーい映画をやってたんですよ……。
知ってますか? マリチャゲッカラが木陰からジクシィをしながら襲いかかってくる映画! もう怖すぎて背中が張り裂けちゃうかと思った!
あ、この映画この星でしかやってないみたい……残念。
もう、夢の中でずっと追いかけられてて……。
叫びながら起きたらまだ暗かったんです。
あ、でももう夜は明けてたんですよ。
今日は雨が降ってたみたいで。
私の家は山間にあるので、雲が低く垂れこめると閉塞感があって。
それはそれで、好きなんですけどね。
だって、世界がここだけになったみたいというか。
なんだか包まれて、守られてる気分になるんです。
今日は薄暗くなっててこわかったですけど。
まだ降り続いてますね。
こんな大雨、見たことないです。
もうちょっとだけ喋ってていいですか?
なんだか、雨の音まで怖くなっちゃった。
ホラー映画、元々そんなに好きじゃないんです。
昨日はね、久しぶりに友達が来てて。
元恋人なんです。
それで、久しぶりに会おうってなって。
彼、映画が嫌いなんです。
だから一緒に見たら仲直りできるかなあ、とおもって。
結局最後まで見てくれなくて、
途中で帰っちゃって……。
それを追いかけたら、彼が――。
あれ。
彼って。
これ、昨日だっけ。
ごめんなさい。ちょっと記憶見てみるね?
お母さーん。
ねえ、脳開けてー!」
「――あれ、もう、またこの壊れたラジオ電源が入ってる……。」
「ここの患者さんの私物でしょ? なんだか不気味よね、それ。」
「本人は何か聞こえてるみたいだけど。アンテナが折れてるんだから受信できるわけないのに。」
「あの人そろそろ処分対象になりそうだし……。」
「このラジオも、遺品として処理、かな。」
「あーあ。気が重いわ。さっさと終わらせて行きましょ。」
「うん。――まあ、でも。」
「このまま集中治療室から帰ってこないかもしれないけど。」
『――以上が、受信記録がないのに録音機に残っていた音声です。至急メンテナンスをお願いします。
記録係 リディア・マルカス』
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