水中飛行

第二の月 時計の日


「アーヴェー・アーヴィー。


 初めまして、記録係さん。


 こちらはピエフ星系第五星。通称『水の星』です。

 聞いたことありますかね。



 昔は陸地があったそうですが、海面上昇でなくなってしまって。

 元々、この星には水中で生活している人々がいたので、彼らと融和政策をとって、みんな水に潜りました。

 ぼくが生まれたころには、もう地上を覚えている人もいなかったんですよね。



 ところで。

 海流ってご存じですか?

 海の中の、大きな水の流れのことで。

 どこの星の海にもあるそうですよ。

 うちの星の場合、全体が海なので海流の速さが尋常ではないんですよ。

 もう、触れただけで体が削れてしまうぐらいの。


 もちろんぼくらの体が石でできているわけでもないので、近づいただけで死ぬんですが。

 さいきん、仲間内で海流に乗ってレースをする輩が出てきまして。


 流れの弱いところから中に入って、速さを競うんだそうで。

 たまに死人が出たって話題になるんですよ。はは。



 あ、別に人の死を軽んじてるわけではなくて。

 実は、若者だけの問題じゃないんですよね、これ。


 流れが強すぎるから、海流はそのまま国境になっているんですよ。

 うちの星はまだ分裂が激しくて……。

 海が違えば文化も違いますから、仕方ないとは思いますが。

 

 で、他国に攻めこむには海流を制する必要がありまして。そんなの無理なんですよ。戦艦を作って無理やり海流を割ったり、季節によって海流がゆるんだときに攻め込んだり。

 そういう駆け引きがあるんですが。


 海流を自由に泳げるようになれば、各国のパワーバランスが壊れてしまう。




 主国家の軍事顧問としては、看過できない状況でして。





 今、がんばって海流に乗れる兵士を要請しています。海流に不法侵入していた若者たちも強制送還して、いっしょに訓練させて。

 春先には隣の国に攻めこめる算段です。



 いやあ、もうすぐ星統一国家ができるのかと思うとワクワクしますね!






 誰にも話せない状況だったので、こうやってぶちまけられてスッキリしました!





 それにしてもこのラジオ、便利ですね。加工すれば水の中でも使えるし、うまくいけば通信に革命が――。


 おっとっと。今はプライベートなんですよ。

 ついつい仕事のことを考えてしまうんです。職業病ですかねこりゃ……。




 今度はちゃんと、なにも関係ない話をさせてください。また巡り合えれば、ですが。」








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