間章 旅地通信社



 「旅地通信社」はルーシャ星に古くから存在している老舗ラジオ店である。


 ラジオの製作、販売部門はもちろんのこと、他星に赴いたルーシャの人々とラジオを通して通信を行い、現地の様子や星界情勢を分析する情報部門がある。




 始まりは小貴族の道楽だった。



 

 旅好きの貴族は敵勢勢力になり得る星があるかどうか偵察に行くと言っては国から助成金をもらい、様々な星に赴いた。

 そんな彼がある星から持ち帰ったのが「鉱石ラジオ」。

 最初は家族間で遊びのように使っていたが、やがて領民との緊急通信手段として普及することを考え、ラジオの生産を始める。

「旅地通信社」として立ち上がったのはこのときからである。


 ラジオの普及は雇用を生み出し、通信によって警備隊や領主館、はては街中の食堂までもがつながり、治安の向上にもつながった。



 そうなってくると面白くないのが国である。



 最初の領主が亡くなる頃、王室は小貴族の領地を直轄地とし、ラジオの生産を国家管理の下で行うと決定した。

 小貴族に直系の後継者がいなかったことも、弱みに付け込む形で利用された。

 領地を継ぐはずだった甥は名ばかりの領主となり、国と王家に跪く日々。


 それでも領民の平和のため、代々、領主一家は耐え抜いた。


 


 おおよそ二百年。鉱石ラジオはルーシャの特産品となるまでに成長した。

 その繁栄を支えていた弱小貴族の名前は、実のところあまり知られていない。





 それが不幸中の幸いだったとも言う。





 市民革命。星は戦火に包まれた。


 王家打倒を謳い、共和制を目指した反乱軍に小貴族はラジオを提供した。

 脅されたわけでも、生き残りたかったわけでもない。

 そもそも現行の王家が崩壊寸前だったのをわかっていたからでもない。

 

 いかに領民が生き残れるのか。

 小貴族が考えられるのは、そのことだけだった。


 結果的に小貴族の領地は国の直轄地でありながら戦火を逃れ、共和制になった後も「旅地通信社」として残ることになった。

 小貴族は新政府に身分を返納し、ただの大企業の社長になり、今までの質素な屋敷に住み続けている。


 家名も、歴代の王からもらった称号だらけの長ったらしい名前から、元々の「リア」に変えた。






 「旅地通信社」は今日も、ラジオの生産と各地からの情報を集めては、日々のどかに営業を続けている。



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