再訪
第二の月 太陽の日
午後 入電
「アーヴェー・アーヴィ。
やあ、記録係さん。
一ヵ月ぶりかな。前に伝言を取り消して、って頼んだ者です。
コロニーから目的地の星に来たところで。落ち着いたからつなげてみたんだ。
ここの星も面白いよ。
実は、この星に来たのは三回目なんだ。
ここだけの話、ぼくの中で一番お気に入りの星なんだよ。
なんせ、気候や植生が故郷にそっくりなんだもの。
ぼくの故郷はね、ぼくが十歳の時に隣の星との戦争で隕石爆撃を受けて人が住めないまでに破壊されたんだ。
まあ、宇宙ではよくある話かな。
聞いたことないかもしれないけど。ロロ星系ってところの、ウィグ星って星なんだ。
自然が豊かでね。
色とりどりの水鳥とか、澄んだ湖とか。巨木の森に、標高が高すぎててっぺんが霞んだ山。伝統的なレンガ造りの町並み……。
今でも思い出せる。……それが、今来てる星にもある。
もちろん、ぼくの見た風景とは違うんだけど。
それでもさ。思い出すときに、目の前に同じような風景があって、同じような風が吹いてたら、そっちの方が感傷に浸れるだろう?
……ああ、何十年も前の風景を思い出せるの、不思議かな。
なんで今でも鮮明に思い出せるかって言うと。
ぼくの一族はね、『物の記憶を視る』ことができるから。
一族って言っても、もうぼくと母さんぐらいしか残ってないけど。
額に石があって。宝石みたいなやつが生えててね。そこに物を当てると視えるんだ。
だから、故郷から持ってきたペンダントに、風景を入れてて。
思い出すときはそこから、ね。
だから、このラジオの辿ってきた旅路も、……ごめんなさい。見てしまいました。
見られるのかな、って気がついたのが、例の太陽になった彼女と別れた後で。
そういえば、記憶見てないなって思っちゃったんだ。
一応、報告しておくね。
彼女自身このラジオは別の商人から買っていたようで。
それまでにもいろんな商人の手を渡っていて。
まるで、たくさんの人の手に渡して、どこからやって来たのか隠したいみたいな。
……それで気になって、遡るところまで遡って……。
この先を、言っていいものか。
……詳しくは言わないでおくけれど。
このラジオは、いろんな人の命と引き換えに、ぼくの元までやってきてくれたんだね。
記憶の中に、記録係さんもいるのかな。
……まあ、直接会わない事にはわからないけど。
とにかくぼくは思ったよ。このラジオを返さなきゃって。
これから情報を集めに、もう一度旅に出ます。
さいわい風景や人は憶えているし、なによりこのラジオはあるべき場所にあったほうがいい。
今いる星には、実はお母さんが入植してるんだ。
故郷と似た環境だからね。過ごしやすくって。
挨拶はできたから、明日発つよ。
これからも、なにか進展があったらラジオで報告するね。
それじゃあまた。」
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