鉱石ラジオ

第一の月 雪結晶の日


「……わっ、本当につながった……!


 




 ……あっ。アーヴェー・アーヴィー。


 えっと。私はマーヤです。えっと。リェシュカフェブリャ星の学生です……!

 あ、えっと。


 あの、友達からこのラジオもらってつけてみたんですけど……えっと……どうすればいいかわからなくて……。



 ど、どうぞ!」





『……。



 アーヴェー・アーヴェー。


 先ほども名乗りましたが、こちらは旅地通信社。ルーシャ星にある会社の記録係のチャンネルになります。

 ここでは主に鉱石ラジオを通して入ってくる別の星のお話を収集・記録しています。

 

 鉱石ラジオはランダムにチャンネルがつながりますから。

 おそらくこのチャンネルにつながるのは今回限りになるでしょう。


 よろしければそちらの星のことを教えていただけませんか?



どうぞ。』




「アーヴェー・アヴィー。


 なるほど、よくわかりました!

 

 じゃあ、リェシュカフェブリャ星の話をしますね!

 私はこの星で生まれ育って、星外に出たこともありません。

 旅行に行けるくらい裕福な家で生まれたかったなあ。



 この星自体、銀河同盟に入ったのは一世紀前。新参者だし辺境に位置しています。


 あるのは豊かな自然ぐらいなんです。





 私が好きな季節は、夏です。

 白夜ってわかりますかね?

 あ、えっと、私の住んでいる星には太陽によって明るい時間と、衛星の灯りしかなくなるくらい時間があるんですけど。

 星の回転の都合で、夏場の一定期間だけ、陽の沈まないときがあるんです。

 


 白夜のちょうど真ん中の日には、門限もなく歩き回っていいお祭りの日があって。

 私はいつも、友達と一緒に遊ぶんです。

 大人はお酒飲んで踊ってるし、子どもは湖でどこまで泳げるか競争したり。

 女の子は大きくなってきたら大人の踊りに付き合ったりします。

 そこで恋人作る子も少なくないんですよ。


 まあ、私は遊ぶのに必死で男の子とか見てなかったんですけどね! 



 ……そうだ。去年も一緒に遊んでたんだよなあ。

 あの頃はまだ、普通だったんです。




 その子――メイミって言うんですけど、急にいなくなっちゃったんです。

 元々私たちは親のいない子供で、施設で育ったんですけど。

 裕福な貴族様が時々私たちみたいな子たちを引き取って、お屋敷の使用人として雇ってくれるんです。 

 メイミはかわいかったからどこかの家に養子にいってもよさそうだったのに、給料もいいからってお屋敷に行くことになったんです。

 それが去年のお祭りの後ぐらいで――。


 それから何か月かは手紙のやりとりをして、生活も順調そうだなって思ってたんですけど。


 急に、お屋敷のほうからメイミがいなくなったって手紙が来て。

 詳しく聞いたら、同じ職場の男の子と駆け落ちしたみたいなんです。

 

 まあ、メイミならやるかなって。

 けっこう猪突猛進な子だから。

 お屋敷にいたのは四か月くらいでしたね。


 それから音沙汰はないんです。


 私は地元の先生がお金を出してくれて、高等学校に進ませてもらいました。

 いつか医者になるのが夢なんです。

 きっとあの子もどこかで元気にしていると信じてます。




 このラジオは、別れるときにメイミからもらったんです。

 昔お祭りで買ったって言ってました。でもこれ以外、同じ機械を見たことがなくて……いちおう通信の方法は本体に書いてあったからなんとなくわかったんですけど。

 

 優しく教えてもらってありがとうございます。

 これからもこのラジオ、たまにつけてみます。


 もしかしたら、メイミにつながるかもしれないから。


 以上です! ずいぶん話がずれちゃってごめんなさい! どうぞ!」




『アーヴェー・アーヴェー。


 私も、ご友人の無事を祈っています。

 

 私は旅地通信社、記録係のディアナ・マルカスです。

 もしも出会うことがあれば、また。




 通信終わり。』


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