定期報告 1

第一の月 さなぎの日


「アーヴェー・アヴィー。

 やあ、リディア。元気かい?


 ――おっと。世間話の前に仕事を終わらせないとな。



 『旅地通信社』記録係殿。こちらは西方調査団団長ルートヴィヒ・リア。三回目の母星に向けての通信。

 今回の調査報告を行う。


 我々西方調査団十名は前回の報告で訪れていたサネ星系を離れ、隣のデボ星系に来ている。デボ星系の居住惑星は大小合わせて三十。長い調査になりそうだ。

 今のところ一番多きな三つの星の調査が終わっている。

 あたりは「なし」。

 しっぽすらつかませてくれないな、しかし。


 鉱石ラジオについては五台を確認している。うちの星の商人が持ち込んだものですべて純正、合法。

 規定通り、「共石」で作られているものはなかった。

 

 なんなら整備不良が見つかったんでちょっと直してやったよ。

 このままデボ星系を調べる。予定としては三ヶ月くらいだろうか。移民星系だから多民族が寄り集まっていて、いざこざも少しあるようだ。

 何事もないといいが。



 報告は以上。」





「さて、リディア。ここからは私的な通信だ。録音はしないでいいよ。喋りたいことを喋っていくからね。

 元気にしてたかい? こっちは原住民にいろいろ売りつけられて大変だよ。大事な国費を無駄遣いはしたくないんだけども。いるかい? 貝のネックレスとかあるよ?


 ――返事がないね。いらないってことにしておこう。


 それはそうと。体の調子は? 毎年雪が降ると足が痛むと言っていただろう?

 ただでさえ動かないのに痛みまで背負わせるなんて。ほんとうに兄さんときたら。

 ああ、今のはただの愚痴だよ。ろくに連絡もくれない君の保護者へのね。


 ぼくからの伝言? もちろんないよ! 好きに生きてさっさとくたばってくれればそれでいい。

 はは。少し薄情すぎるかな。


 でもね、リディア。こんなんでも血がつながってるから『家族』ってくくりの中に納まってしまうんだよ。

 まったくやっかいな制度だね。

 あ、もしもリディア・リアになりたければすぐに言ってね! ここからでも申請通してみせるから!

 もちろん意地で!


 とにかく、足を大事にしておきなさい。きみにとってはお荷物かもしれないけど、くっついてるってことはまだ使い道があるってことだ。いつかは役に立つよ。

 たぶん。



 じゃあ、また連絡するよ。夜星にいい夢を。通信終わり。」











『後半は別紙に記入。手紙箱に保管。 リディア・マルカス』



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