前篇 鉱石ラジオ

第一の月

なくしもの

 第一の月 綿摘みの日


 午前中入電





「――アーヴェー・アーヴィー。




 こんにちは、記録者さん。覚えてるかな?

 一年ぐらい前に伝言を依頼した者なんだけれど。


 ええっと、確か第三星系が急接近して航路に大きな乱れができてた時期だよ。――って言っても伝わらないか。宇宙のどこと通信してるかなんて、わからないよね。

 退屈だろうからさっさと本題を話すよ。


 一年前に頼んだ伝言なんだけど、もう破棄してくれてかまわないよ。

 目的の人に会えたからさ。

 覚えてるかな。ぼくとウィジィシャ星のウ大陸で会った女の子に、君の鉱石ラジオを預かってることを伝えてほしいって言ってたの。


 その子は各地を旅して、珍しいものを集めては故郷で売ってるって言ってて。ぼくが今使ってる鉱石ラジオもその子から譲り受けた物でさ。

 最初に聞いたときは不思議だなって思ったよ。

 ある星でしか採れない鉱石で、同じ石で作ってあれば全宇宙とランダムにつながるなんて。

 半信半疑なぼくに、その子は売れ残った鉱石ラジオを譲ってくれたんだ。


 「旅地通信社」のことも、その時教えてもらったんだ。


 そのあとぼくらは別れて旅を続けたわけだけど、あるときぼくはラジオの中にある物を見つけた。彼女のものだってすぐわかったよ。彼女がつけているところは見たことなかったけど、『記憶』は見られたからね。


 だから、彼女を探して返すことにした。

 いろんなところに電波を飛ばして捜したよ。結局、一年かかったけどちゃんと見つけられたんだ。



 もう、彼女は太陽になってたんだけど。




 ああ、この言い回しじゃ伝わらないか。


 彼女は極宇宙のサン星人だったんだ。

 サン星には太陽がなくてね。代わりに一年に一度、百人の原住民を炉にくべて太陽にするんだ。彼女もその一人で、ぼくと会った時にはもうそのことも決まっていたんだって。

 だから、商品をタダで譲ったりしたんだって思った。

 彼女の持ち物もなにもかも、彼女と一緒にくべられてなくなっていて。残された家族に彼女の物を届けたら、泣いて喜んでたよ。

 で、お礼にってぼくはこのラジオをもらったんだ。



 


 長々聞いてくれてありがとう。







 ……実はさっき彼女の家族と別れたところなんだ。今はサン星から出て移動コロニーに移ったところ。

 



 もうちょっとだけ、話してもいいかな。




 宇宙には何十万という種類の生物がいるし、同じ星でも価値観が違うところがあるから、種族が違えばそりゃあぼくの常識が通用しなくても何もおかしくないんだけど。


 でも、さ。



 誰かをなくしたむなしさっていうのは、どこも変わらないのかな。











 ――ごめん、ずいぶん時間を取らせちゃったな。


 というわけで、ぼくの伝言は取り消しておいてくれ。


 また何かあったらよろしくね。」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る