交心記録

水沢妃

交心記録

プロローグ

通信





――――ピー。ザザッ。








 聞き慣れた音に、読んでいた本から顔を上げる。

 窓際の無線機からの音だった。実に三日ぶりの。ベッドの上に本を置いて静かに車輪をまわし、そちらに近づく。


 机の上には大きな無線機があり、その隣には録音機がセットされている。

 その向こうには深々と降りつもる灰色の雪。

 すき間風の冷たさに、ショールを今一度肩にかけ直す。


 録音機に手をのばした。


 カチリ。


 テープが廻りだす。


「――第四の月、十六夜の日。感あり。」


 そう吹きこんでから、無線機に手をのばす。


 パチッ。


「――アーヴェー、アーヴェ。こちらは旅地通信社、記録係です。お名前と現在地をどうぞ。」


 パチッ。


 スイッチを切り替えて数秒、無線機から雑音が、そして、人の声がした。

 わたしは無意識に、机の上に置かれた紙の束と筆記具を手繰り寄せる。


 感度良好。いつも通りの通信。






「――アーヴェー、アーヴィ。おはよう記録係さん。こちらは――――、」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る