第107話 HK
「……倉井くん。倉井くんってまだ部活決まってなかったですよね? あのですね、実は今、新聞部では新規入会者様に素敵なプレゼントを配るキャンペーン中なんですけども……」
落雷が直撃したような衝撃を受けたゼクスは砂となって消え、てくれてもよかったんだけど、持ち前のしぶとさを発揮し一瞬で立ち直ってしまった。
そしてすかさず始まった俺への勧誘。おかしいっすねえ、この前俺のことは諦めたとか言ってた気がするんだけど。これ多分考えるだけ無駄なんだろうなあ。
しっかしほんとビビるくらい
「決まってないけど、おまえそれ新聞部じゃなくて新聞の営業じゃねえか。入会って言っちやってるぞ」
物で釣ろうなんてこいつも形振り構わなくなっ……たわけでもないな、うん。脅迫の方がよっぽどだ。それに比べるとむしろ正攻法と言ってもいい。
「……ちなみに、なにくれるんだよ」
んでこいつは退がった分だけ詰めてくる達人が如き立ち回りをするからな。新入部員の話題の時と同じく聞かねばいけない流れに巧妙に誘導されていた気がしないでもないが、答えを誘導されているのなら素直に受けてそこから更に返されるゼクスの答えの選択肢も絞る方がおそらく生存率は高い。
毒を食らわば皿まで。最近これ思い過ぎて口の中破片でボッロボロだけど。もう血塗れだよそろそろ輸血とか要る。
「サングラス……」
グラサンか……仮面、マスクと続いたから次はパンティでも被らされるのかと思ったんだが、これまでの流れからするとずいぶんマトモな代物に思えてしまう。
まあそれも相対的なモノで、眼の病気でもないのに学校で常グラサン掛けてるヤツとか充分痛いんだが。
洗剤とか貰っても困るけどさ、いやグラサンが嬉しいというワケでもないんだが、うーんまずはそれ以前に一つ突っ込ませてくれ。
「……と、シルクハットとマント」
なんて思ってたら返す刀でもう一度斬られちゃったわ俺。タキシード仮面じゃねえかよその組み合わせ、なんで俺だけガンダムじゃないんだよ。
「なあ、顔隠す義務はないんじゃなかったか?」
流石に今のに突っ込みを入れるスキルは俺にはない。それにどうせ大した意味ないんでしょう? と気を取り直して当初聞きたかったことを聞くことにした。
ちなみに気を取り直してとは言っても、度重なる精神汚染に自分が正気である自信はないので開き直ってと言ったほうが正しかったかもしれない。
「一人だけ仲間外れは寂しいかなって……」
気を遣う場所が間違ってるわい。それに仲間外れが嫌ならガンダムの仮面キャラまだ結構残ってるだろ、乙女座の人とかそれこそ一番有名なロリコンとかさ、違う俺は別にMSに乗りたいワケじゃねえよ。
いや嘘。嘘吐いた。乗れるなら乗りたいよガンダム男の子だもん。でも仮面なんて被ったって存在しないもんには乗れやしないの。
「どんだけ俺にツッコませれば気が済むんだよ」
「流れで新聞部にも突っ込んでくれないかなーとか……」
大喜利かな。
にしたって強引すぎるしボケの量が供給過多で回ってないわ。
「今なら美少女しか居ないハーレムですよ?」
「どの部に入ったってそうじゃねえか」
言った側から突っ込まされてしまった。
つーか自分で美少女とか言うなよ……大体そう思うならなんで顔隠してんだ。
あとむしろ、俺を性別で吊りたいなら顧問でもなんでもいいから男が多いアピールの方が効果高いぞ。まあMTG部は森くんの存在を差し引いてもお嬢様のキャラが強烈過ぎてダメだったけど。
ましてや新聞部に居るのはそれ以上のキ○ガイ度を誇る仮面を被った二人組。そんな魔女が住まうこの場所は最早伏魔殿と言っても過言ではなく、足を踏み入れたくなる要素などミリもない。マイナスとマイナスがプラスになるのは数学だけという簡単なことがなぜわからないのか。
「……確かに部活は決まってないけど、俺は新聞部にだきゃあ死んでも入らないぞ」
「ええー……まあ知ってましたけどー……んん? “だけは”ってなんですか“だけは”って!! いや死んでも!? ちょっと待ってください今死んでもって言いましたか!?」
「言ったよ」
だって絶対胃に穴開くもんストレスで。
「はあ……まあ倉井くんには元から期待してないから別にいいんですけどね。でも、そこまで拒絶されると流石の私も傷付きます」
「絶対おまえの方が言ってること酷いからな」
俺のメンタルが弱ければ泣くか殴るかしてる。泣きながら殴ってる可能性すらある。
突っ伏して大げさに落ち込んでいたゼクスが顔を上げるついでに時計を見たので俺も釣られて確認すると、もういい時間だった。
最初は文句叩き付けて直ぐ帰るつもりだったのになんだかんだ一時間以上話し込んじまったな……飯の時間まではまだ余裕あるから大丈夫だけどさ。
「じゃあ……俺今度こそ行くけど程々に頑張れよ。程々にだぞ程々に。マジ自重しろよ。そして俺で記事を書くなよ」
「もう帰っちゃうんですか? せっかくだから彼女にも紹介したかったんですけど……」
「だから帰るんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます