第94話 サービスシーン
言われて、俺は
水気を吸ったスラックスはスキニーが如く下半身に張り付き、すっぽんぽんの上半身にはそれなりに割れた腹筋や胸筋があられもなく。
そんな感じに肉体美を惜しげなく曝け出した姿はどこに出しても恥ずかしくない程立派なエガちゃんスタイルで、これが男女逆であればきゃあのび太さんのエッチスケッチワンタッチと悲鳴の一つや二つ上がる場面なのだろうが―――仮にそうだったとしても七生は悲鳴をあげるようなキャラじゃないし、実際前に逆だった時の経験に則るとやっぱりこれも踵落としによる制裁を受けることになるんですかね……?
二発目は流石に勘弁して欲しいなあ……どんだけ痛いかとか意識なかったから覚えてないけど、そう何度も後頭部への衝撃で気絶してたら後遺症とか残りそう。
あとその部分だけハゲそう。若ハゲは悪夢だ。
―――なんて考えていた時、風呂場の方から姦しい声が聴こえて来た。
「ふう……暑いわね……」
「っついねー……早く帰って
「ああ。バッチリジョッキごと冷凍庫にぶち込んでおいた」
やっべ誰か出て来るぞ。
こんなところ見られたら絶対ヤバい。玄関で半裸とか悲鳴から学級裁判のフルコースだ。
早くしないと鉢合わせてしまう、と慌てて服を着ようとするもびしょ濡れな上固く絞った服は生地同士が変に張り付いていて着にくいことこの上なく。
なかなか上手くいかず、このままでは社会的に死んでしまうと更に焦り悪循環に陥る俺、ため息を付く七生。
今から上に行く余裕はあるか? でも階段ちょっと遠いぞ。いやいっそ一旦外に出るべきか―――
「はあ……こっち来て」
「え?」
クセというのは恐ろしいモノで、こんな状況に置かれているのに“どこに往こうと言うのかね”―――なんてラピュタ王のようにくだらないことを考えてしまっていた。
「ああもう。いいから、こっち」
七生が狼狽える俺の手を取って歩き出す。
くっそなんも見えねえ。半裸の俺を連れ込んでどうするつもりなの!? なんて冗談を言う余裕もなく成すがまま連行される。
そんな感じで、頭の上で
はえ~薄暗い……なんて電波ムーブをしていると、七生がパチンと照明のスイッチを入れる。
照らし出された空間は広さ的には俺とルクルの部屋と同じくらいか。内装はコンクリート打ちっぱなしの無骨な造りで、大型のロッカーや棚ががいくつも並んでいて一見倉庫のようだが、以前三星さんが案内してくれた倉庫兼荷物置き場はこことは別だったと記憶している。
それに、三星さんはあそこが最後の共用部と言っていたはずだが……。
「この部屋はなんなんだ?」
見たまんまなら倉庫だけど、違うんだよな?
「庭師の人達が使う道具を置いておく部屋よ」
ああ……なるほど。確かにあの広さの庭を維持するのなら定期的にそういったプロの人達の手を入れる必要があるよな。
通販番組に出て来る電動の枝切バサミみたいなのしか知らないから本職の方々がどんな道具を使っているのかすっげえ興味あるけど、勝手に触らない方がよさそうだ。
でも超見たいから今度三星さんに次いつ来るのか教えて貰って作業を見学させてもらおう。男の子ってのはそういうの専門の道具とか特殊な作業が大好きなモンだからな……俺も当然、例にもれず。
まあ、今はそれが授業中でないことを祈っておこう。
「ふう……」
そして隣に居る七生は風呂上りで肌が上気しているというか、温もった肢体から立ち昇る湯気が
なんか髪とかもすげえいい匂いする気がしてきた。
これは非常にやらし、いやよろしくない。
七生と風呂の組み合わせと言えば、初めて会った時は裸を見ちまって気絶させられたんだよな。
裸―――くそっ、余計なもんまで思い出しちまった。
過去と現在の相乗効果。これで意識するなと言う方が土台無理な話である。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
2.3.5.7.11―――お経を唱えつつ心の中では素数を数える。
ここまですれば大丈夫だと思うが、ダメ押しで脳内イメージを一文字のおっさんがハイレグでバイクに乗っている姿にしておこう。きっしょ……。
「とりあえず服着たら?」
「なまむぎなまご……え、なんですって?」
「いつまで半裸のまま居るのかって聞いてんの」
俺は改めて自分の身体に視線を降ろす。
寒すぎて乳首が勃っていた。
「……見るなよ、えっち」
「あんたが、あたし相手に、それを言う?」
あっ怒っていらっしゃる。
「今は三千円しかねえけど、いいか?」
「いいから早く着ろ」
「うっす」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます