第71話 (*`ω´*)
よく考えたら弁当箱どころか調理器具すらなにも持っていなかったので、まずはそれらを揃えるためにホームセンターのキッチン用品売り場へ。
流し台とコンロやオーブンレンジなどの熱源は部屋の廊下に備え付けられていたので調理場は問題ないが、先住民のルクルは自炊をしないのかフライパンや包丁などの調理器具を一つも置いていなかった。
寮の食堂に置いてある道具や設備を使っていいのかもしれないが、もしかしたら今後また作ることがあるかもしれないし、それならばこの機会に一式揃えてしまおうという算段である。
しかしルクルのやつ、料理は人並みにできると言っていた気がするけど本当なのか? あいつが料理している姿なんてまったく想像できないし、事実部屋にはなんの道具もなかったが……実家に料理人が居るとか言っていたし、間違いなく作らせる側の人間だよな。
まあそれは夕食を担当する時が来ればわかることだし、それまでの楽しみにしておこうか。なにより俺も人にあれこれ言えるほど上手いってわけじゃない。
あれこれ考えてるうちに売り場へ着いたので、さっそく陳列棚を物色する。一口に包丁やフライパンと言ってもそれぞれ結構な種類があるようで、実家に居た頃は置いてある道具をなにも考えずに使っていた手合としては違いがわからない。
三徳包丁? ……十徳ナイフの親戚か? その割にゃ変形ギミックが見当たらないけど。ダマスカス包丁は名前がカッコよすぎて惹かれるけど高え……。
そんでテフロン加工にフッ素加工。こいつらの名前は聞いたことがある気がするけど、どんな意味かまでは知らんな。こういう時はグーグル先生に……えっ同じ? ウッソだろ同じなら統一してくれよ。
ミートハンマー……? 名前からして肉を叩く道具だよな? いやなんのためにだよ、死体蹴りとかマナー違反で台パンされるわ。にしてもこいつ痛そうなカタチしてやがんな拷問器具だろ……サイズは違うけど、洋画でズタ袋被った化け物が振り回しててもおかしくない凶悪さだぞ。
しっかしこうして見てみると、普段何気なく使っているような道具でもいろんなバリエーションがあるし、見ただけじゃ使い方がわからないようなアイテムもいっぱいあって結構面白いな。
「……いやこの調子じゃ永遠に終わらんだろ」
流石男のテーマパークの異名を持つホームセンターよ。時間泥棒め。
いやバカなこと考えて時間使ってる場合かバカ。楽しむのはいいが目的を忘れるなバカ。他にも周る場所があるんだし、今日のところはとっとと買い物を済ませて今度暇で暇で仕方ない時に覚えていたらまた来よう。
フッ素とテフロンのついでに調べてみたら、最初に見た三徳包丁というのが初心者におすすめだと書いてあったので包丁はそれにしよう。メーカーなんかは拘りがないどころか名前も知らんので、とりあえず必要な道具各種の中から一番安いものをパパッと手に取って精算を済まし、続いて同じ敷地内にあるスーパーへ。
この複合施設はホームセンターとスーパーだけでなく飲食街や本屋、服屋など生活に必要なものが一通り併設されているらしく、当然ATMもあった。そして集客力に比例して駐車場もかなり広い。学園の規模といいこの街は土地が余ってんだろうか。
それら施設を繋ぐ渡り廊下的な通路から見える駐車場に居た見覚えのある変なおっさんと目が合わないように明後日の方向を向きながらもスーパーに辿り着いた俺は、道中の野菜売り場などを全スルーしてまずは精肉コーナーへ向かった。
料理のメインといえば肉。誰がなんと言ったって肉よ。
「さーて、んじゃなにを作るかねっと……」
自分で食う分にゃ焼いた肉と米だけでも大満足なんだけど、いくら俺でも明日の集まりがそういうのじゃないというのは流石にわかっている。
ではなにを作るか。肉欲を満たしつつ、それなりに見た目も栄えるもの。あと冷めても味が落ちにくく、匂いのキツすぎないもの。
そんな神のようなメニューが果たして地球上に存在するのだろうか。あるとしたら世のお母さん方は垂涎ものなんじゃないか。
まあ最終的にはグーグル先生に縋りつくとして、ひとまず自分がなにを食べたいのかを考えてみよう。
から揚げ……は揚げるの面倒だし油の処理が面倒、とんかつも同上。いやこりゃ揚げ物全般に言えることだな。
生姜焼き……は弁当が白と茶色だけになりそう。いやキャベツも入れればワンチャンあるか?
ハンバーグ……は捏ねるのが面倒そうなので却下。
他に冷めてもうまい肉系の料理……冷しゃぶ? 教室でしゃぶしゃぶしたことはあるけど冷しゃぶ持ってったことはねえな……。
うーん……こうして考えてみると、弁当作りと簡単に言ってもいざ自分でやるとなれば結構面倒だ。つーか献立で詰まるとか調理に入る以前の問題じゃないか?
そういや家族が居ない時に自炊したことは何度もあるけど、お弁当を作ったことは一度もないな。前の学校は給食だったし、たまに弁当を持って行く必要がある日はスーパーで買うか菓子パンで済ませていた。あと弁当食う機会つったらツーリングとかだけど、そっちもだいたいコンビニで済ませるからな。
山の上にあるコンビニの駐車場で街を眺めながら食う弁当が死ぬほどうまいんだよなあ……。
っと、脱線しかけたけどなにを作るかマジメに考えねえと。
肉。米。肉。肉。肉。野菜はどうでもいい。いや見た目の彩を気にするなら必要なのか。黄色とか緑の肉はねえのかな。あとは味の濃いもの。でも中華は嫌。
肉+米+野菜+味の濃いもの、か……。
「……カレー?」
いや確かに味は濃いし肉も野菜も入っているけどさ。けどなにを入れようと煮込んだら茶色になるし彩もクソもねえ。それに自分で言っていた他の前提も全否定じゃねえか。あとカレーのこと考えてる時にクソなんて思うんじゃねえよバカ。
電波がカレーなんて言ってたせいで頭に残ってんのか? あの野郎……。
まあとりあえず、『弁当 カレー』で検索だけしてみるか。
「……マジか。結構やってる人居んのか」
タッパーにご飯、保温ジャーにルー。なるほど容器をわけるのか。
確かにスープなど汁物を容れる前提で作られている保温ジャーなら、普通の液体より粘性の高いルーがこぼれる心配はまずないし、当然冷めることもない。液体という欠点を逆手に取った妙手だ。
そしてご飯が冷めたところで、熱々のルーをかければ温かいお弁当が完成する。
いや、それ以前に冷飯と熱々のルーって組み合わせは俺が一番好きなヤツじゃねえか。神かよ。
『ごめん。俺が間違ってたわ』
とりあえずメールで電波に謝って、登録名をキレンジャーに変えて、カレー用の肉をカゴにぽぽいぽい。
あとカレーの具っていうとジャガイモと人参、永沢くんだったかな。ルーは適当にうまそうな固形のを見繕おう。調子に乗ってスパイスから調合とか調べながらやったって失敗するのが目に見えているし、完成形もかかる時間も想像できん。
保温ジャーは普段走る時に使っている水筒が保温機能付きだからそれを流用すればいいよな?
完璧じゃねえか。勝っただろこれ。
もう完全にカレーの気分になった俺は、自分が電波に言ったことも全て忘れて材料を揃え、颯爽とバイクに跨って意気揚々と引き揚げた。
ちなみにヘルメットは先生のに対抗してインカム付きの良いやつを調子こいて二つも買ってしまったのでマサシくんの中の人一ヶ月分の諭吉に羽根が生え、帰り道ではコンビニ部のお世話になることもマジで考えておこうと思った未来くんでした。
あと
◇
「それで突然カレーなんて作り始めたのか」
事のあらましを話すと、ルクルが付け合わせのミックスベジタブルを見るような目で俺を見る。
「話を聞いた限り、他はともかく匂いの問題はなにも解決していないように思えるが」
「言わんといてください」
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