第67話 しかし まわりこまれてしまった
まさかそんな返しをされるとは思っていなかったので、思考がフリーズしてしまった。
「……」
野上先輩は黙ったまま俺の反応を待っている。答えは沈黙なんてのが許されそうな雰囲気じゃないぞ。
しかしなんでと申されましても。
もし許されるのであれば逆に聞きたいくらいなんだが、そこまで俺を連れて行きたい理由と、なんなら俺が行って当然と思われてそうなのはなんでなんだよ。これも聞けそうな雰囲気じゃないよな。
ちくしょう自分のことなのに遠い出来事な気さえしてきたぞ。
理由を付けて断ろうにも俺はアレルギーだとかそういったものは一切ないし、そもそもルクルが今年の手芸館にアレルギー持ちは居ないと言っていた。夕食は寮生が交代で作るんだし、席が別けられているということと合わせて考えれば当然ルクルだけでなく寮生全体に周知されていると思っていいいはずだ。料理研究部の部長なんて立場を差し引いても野上先輩がそれを知らないとは思えないし、仮に知らなくても直ぐにバレる。好みに関しても喜んで口にするかは別としてゲテモノだって出されりゃ食う。いずれにしてもバレた時の心証は最悪だ。
料理研究部の皆さんが怖いなんてのは余計に言えない話だよな。貴方の仲間を信用できませんなんてどう遠回しに伝えたって波風立ちまくりだ。逆巻く銀河かってくらい荒れ狂うわ。
自分で言うのもなんだが俺は割と八方美人な気があるので、そういうのはちょっと耐えられない。こんなところで舞子さんが言っていた女の敵なんてフラグ回収したくないぞ。
「この前の夕食、おいしくなかった……?」
「いえ、決して、そのようなことは」
沈黙を拒否と受け取ったのか、不安そうな表情で追撃してくる野上先輩。圧された俺は政治家のようにしどろもどろな受け答えをしてしまう。
「毎日でも食べたいって言ってくれたのは、嘘だったの……?」
ちょっと待ってちょうだいよなんで俺はこんな追い詰められてるんだ? 後ろに壁とか全然ないのに押しつぶされてる気分だぞ破局寸前のカップルかよ。
こういう時こそ電波とかゼクスとか都合良く通りかかってくれねえかな。特にゼクス、今こそおまえの神出鬼没っぷりを発揮する時だぞ……!
エピオンでもトールギスでもなんでもいいから壁ぶち破って来てくんねえかな。無理か。知ってるよ。
「い……」
「……?」
「今はその、まだ学校に入ったばっかりだから同級生と馴染むために昼休みを使ってるんです。舞子さんの相手ができなかったのも、実はそのせいで」
これいいんじゃない? 神の一手まであるだろ。
「ほら、一緒に食事を摂るのって、コミュニケーションの基本じゃないっすか、野上先輩なら、わかってくれると思うんですけど……」
おおよくもまあペラペラと出て来るなこんな言い訳が出るわ出るわのバーゲンセールよ。自分がこんなにも舌の回る人間だとは思わなかったぜ。追い詰められた人間はなんでもできるって話は本当だったんだな。
「……確かに」
納得してくれたか―――?
「じゃあ……」
―――仕方ないね。俺の耳にはそんな言葉が飛び込んで来る予定だったが、それは幻聴ですらなかったらしい。
「―――じゃあ、お友達と来ても、いいよ?」
「はっ―――ッハ」
いかん、止まっていた反動か今度は過呼吸一歩手前だ。
「携帯、落としたよ?」
野上先輩が拾い上げてくれたスマホを受け取って、それからどうする。あ、ケースの端っこ欠けてる。
「あの、食べるだけじゃ悪いんで、俺もなんか作れそうな余裕がある時と、料理部が集まる日が合えば行かせてもらいます」
なにも毎日部で集まってるわけではあるまい。こう言っておけばその日は作れそうにな
「じゃあ、次は未来くんがいけそうな日に集まることにするね?」
―――いからと誤魔化すことは出来そうにありませんね。
やべえよ。
警察もびっくりの任意同行だよ。
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