六日目
第61話 アレがアレでアメなんだよ。
まあいいや。ゼクスの頭がアレなのは今に始まったことじゃないし、一々反応していたら身が持たん。まあ腐っても年上の女性をアレ呼ばわりとかそれこそアレだけど、散々振り回されてるんだし心の中で思うくらいはいいよな、うん。
「ゼクス、これ」
ここで会ったが百年目。放課後に新聞部まで行くつもりだったけど、一日に二度もこいつの相手をするのはソースの二度付けと同じくらいアレなので、今のうちに土産を渡してしまおう。
あ、別に嫌いとかじゃないよ。
どっちかっていうと好きな方だけど、そういうのとは関係なしにしんどい時とか、誰にでもあると思うの。誰に弁解してんのかわかんねえけど。
「また変なこと考えてる時の間ですねえ……まあいいです。なんですか? この箱」
「いや実はだな、昨日の電話だと言い忘れてたんだけどこの土日でプチ旅行に行ってたんだよ、こりゃその土産だ」
「そうだったんですか! それで学園に居なかったんですねえ……ご丁寧にどうも。ってそんなもので誤魔化されませんよ! まったくもう!」
そういうつもりはまったくないんだが……だって俺悪くないから誤魔化す必要とかないと思うし。
「要らねえなら引っ込めるけど」
「要らないとは言っていません、ありがたく頂きますよ。どうもありがとうございます」
「和菓子部とかが作ったもんで舌が肥えてるかもしんねえけど、まあこういうのは雰囲気も合わせて食べるもんだから口に合わなくても文句とか言うなよ」
「そんな失礼なことしませんよ! まったく、倉井くんは私をなんだと思ってるんですかね?」
まあいいや。あんまりこいつの相手をしているとせっかく早めに登校したというのに桃谷達に会いに行く時間がなくなってしまう。
あとは適当にあしらって、とっとと上にあがろう。
「ポスター頑張って作ったんだし、部員集まるといいな。じゃあ俺ちょっと急ぐから」
「はい! それじゃあまた。お土産ありがとうございました!」
よっぽど楽しみにしていたんだろうな、登校してくる生徒達の反応をこっそり見るとかなんとか言って物陰に隠れたゼクスを残し、俺は一足先にその場を去った。
「……誤魔化されてるじゃねえか」
でもゼクス、その仮面で忍ぶのは無理があると思うぞ。
◇
チョロ過ぎて将来が心配なゼクスと別れてしばらく、一年の教室があるエリア。
かなり早い時間なのと、初めての休み明けというのもあるんだろうか。覗き込んだ室内に人気は少なく、閑散とした廊下には俺の足音だけが響いている。これが普通の学校なら、窓の外から朝練の声とか聴こえてくるんだろうけど……この学園のグラウンド、校舎から結構遠いからな。
どこかの部が活動していたとしても、ここまでは届かないだろう。
そう考えると、運動系の部活は意識して足を運ばないと目にも入らないんだな……うーむ、どこの部活も部員集めは大変そうだ。
今更だが、俺は先日の説明会の重要性を再確認した。
なら新聞記事という形でアピールできるゼクスは恵まれ……てねえわ。ポスターとか誰でも思い付くしやろうと思えばどこの部でも作れんじゃん。
……あれ、ちょっと待った。の割にあの掲示板、他の部のポスターとか一枚も貼ってなかった気がするんだが。
誰も思い付かないなんてのはありえない話だし……まさかあいつ、許可取ってないで勝手に貼った、とかないよな? あそこ生徒が勝手に貼っちゃダメな場所とか……いや、流石にないか。
いくらゼクスだって、んな四方八方に滅茶苦茶なヤツじゃないだろう。
……まあ、仮にそうだとして。
部外者である俺には、なんの関係もない。
……はず。
ないよね?
◇
さて桃谷達の教室はっと……。
この学園に入ってから自分以外の教室に行くのって何気に初めてで、ちょっと緊張するな。前の学校じゃそんなことなかったんだけど、やっぱ女子校ってのが大きいんだろうか。
馴染みの真露が居るってのが唯一の救いだが……っと、ここだここ。
中を確認すると、特徴的な
あいつどの角度から見てもわかりやすくていいな。真露と南雲の姿はないようだけど、まあ後者に関しては予想通りよ。この時間帯に通学するようなキャラなら体育の授業もサボらないだろうし。
「桃谷」
「未来さん……? はい、なんでしょうか」
教室に入りざまに声を掛けると、姿を確認する前に俺だとわかったらしい。桃谷は名を口にしてから振り返った。
「見もしないでよくわかったな」
「今一度、ご自身の立場を考えてみてください」
「……そうか。声で一発か」
男は俺しか居ないんだ、そりゃわかる。教職員も女性か爺さんばっかだって宝条先生言ってたもんな。
「真露さんなら先ほど席を外したところですわ。十分もすれば戻って来られと思いますけど」
「いや、今日はあいつじゃなくて桃谷に用があるんだ」
「私に、ですか?」
「おう。真露から聞いてるかもしんないけど、土日の間実家に帰っててな。その土産を配ってるところなんだよ」
「あら、私にも頂けるんですか?」
「おう。そのつもりだから受け取ってくれ」
「ありがとうございます。……では、私からも飴ちゃんをどうぞ」
というわけで、お土産とべっこう飴のトレード成立。レートでいうと鮫もいいところだと思う。
「どーも。この飴うまいよなあ……前もくれたけど、いつも持ち歩いてんのか?」
確かに桃谷がくれるべっこう飴は、俺が今まで食ったどのべっこう飴よりもうまいけど、そこまでべっこう飴が好きなヤツとか爺さん婆さん以外で見たことない。
「お口に合ったようでよかったですわ。実は私、お菓子作りが趣味でして。この飴は一番初めに教わったもので思い入れがあるんです」
確かにクッキーとかケーキに比べたら手間は掛からなさそうだけど、まさかの手作りか。
「へえ……なんかいいな、そういうの」
すげえ女の子っぽい。
もしかしたら俺の周りで、桃谷が一番女子力ってヤツ高いんじゃないか?
「ふふ。ありがとうございます」
なんか笑い方も上品に思えてきた。いや実際舞子さんなんかと比べれば月とスッポンレベルで上品なんだが、誰だよ大阪のオバちゃんとか言ってたヤツは。とんでもねえ野郎だぜ。
しばらくして帰って来た真露を加えた三人で談笑している内に、気付けば始業五分前。しかし南雲はついぞ現れず。
あいつマジでギリギリまで来ないとか舐めてやがんな……。
仕方ない、昼休みに出直そう。長時間ぬいぐるみを持ったままだと誰か―――主にルクルとかに見つかった時なに言われるかわかったもんじゃないから早いとこ渡してしまいたいんだが。ちくしょう俺のじゃねえのに。
そして自分の教室に入る瞬間―――視界の隅にあっちの教室に入る南雲の姿が。
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