第55 炭水化物ってなんであんなうまいんだろうな。
時間的にはまだ少し早い気もするが、俺は長距離の移動で腹が減っているのだ。
だから仮に一人でも、いや一人は嫌だから最低限真露くらいは道連れにするけど。なんなら電波でも可だけど。誰も異論を挟まないし皆行くってことでいいんだよな?
ということで俺達は一路食堂へ。
「今更なんだけどさ」
「どうした?」
「や、ディナーもランチと同じでタダと思ってていいんだよな? さっきも言ったけど銀行行かないと財布死んでんだよ」
少なくともお札は一枚もない。いや、この場合だと多くともと言うべきなのか?
「安心しろ、日時を問わず学食はいつでも無料だ。……それにもし緊急の入用だとしても、学園のコンビニは外と同じでATMがあるからいつでも引き出せるぞ」
「バカ野郎日曜だと手数料かかっちまうじゃねえか」
一度の時間外手数料でピルクルが一本買えてしまうんだぜ? これだから金銭感覚のズレたブルジョワは困る。
「教えてやったのに、なぜ私は怒られたんだ……?」
まあ無料ならよかったよ。流石に学食でカードが使えるとは思えないからな。
しかしそうなると目下の
ならルクル、電波と続いたので次は三星さんと七生のお勧めでも聞いてみるかな。
「三星さんと七生はよく行く店とかあるんすか?」
「私はこれといって特には……いつも一緒に行く相手に任せている感じですね」
「中華」
「じゃあ中華にするか……別の店がいいって人は? なんかあったら今の内に言ってくれ、腹を切り替える」
三星さんは確かに、相手に合わせるってイメージがあるな。そんで七生は中華か、言われてみればチャイナドレスとか似合いそうだもんな。
よし。皆の顔を見渡して少し待ってみたが、特に希望はないみたいなので中華で決まりだ。
しかしこういう時、俺の聞き方も悪かったんだろうけど「それでいいよ」とか一言でいいから欲しいよね。
◇
「みんな中華だとなにが一番好きだ? 俺は酢豚と油淋鶏に炒飯。白飯が無限に食える」
「一番好きなメニューって言っておきながらなんで三つも挙げるのよ……」
「待て、それよりも炒飯で白米だと? 貴様、頭がどうかしているんじゃないか……?」
七生とルクルに怪訝そうな顔を向けられるが、どれも甲乙つけ難いくらい好きなんだから仕方ない。
ちなみに唐揚げとラーメンは俺の中で中華料理の枠組みからハミ出ているのでノーカンだ。
「ならルクルは餃子で米を食わないのか? アレだって炭水化物オン炭水化物だろ。ちなみに俺は餃子で米は食えんぞ」
「……? それは普通に食べるが……んん? そういう話なのか……?」
「や、どう考えてもおかしいのはこいつでしょ。なに乗せられそうになってるのよ」
七生がルクルに荷担する。
二対一……?
バカな。俺に味方は居ないのか?
「真露……はダメだな。あいつはシチューをおかずに米を食うような味音痴だからアテにならん」
「真露もあんたにだけは言われたくないでしょうね」
「シチューでご飯はカレーが存在するんだし合うんじゃないのか?」
ビーフシチューなら食えんことはないけど、それもうハヤシライスでいいじゃん。
しかし俺がそう主張したところで、この二人を短時間で改宗させることは恐らく不可能だ。
ならこういう時は御し易い、よくわかっていなくてもとりあえずで追従してくれそうなヤツを味方に引き込もう。
となれば、やはり電波しかあるまい。
わかってんだろ? と視線を投げかけるも、真露との会話に集中している電波は俺に気付くことすらなかった。許せん。
許せんけど、同じ相手に連続でスルーされたら今以上に萎むから標的を変えよう。
彼女なら無視だなんてそんな、非人道的な行為に手を染めることはないはずだ。
「三星さんは炒飯でご飯食べますよね」
「……? 炒飯がお米なのは当然ですよね……?」
はは、ボケよって。さてはこの人もちゃんと聞いていなかった口だな?
だが俺はそんなことで諦めたりはしない。だって後がないんだもの。
「三星さん、炒飯isライスじゃなくて炒飯deライスですよ」
「諦めなさいよ。多分、その食べ方するのこの学園であんただけだから」
「…………。そうか……」
「いやショック受けすぎじゃない? えっ、もしかしてあたしが止め刺した感じになるのか? これ」
「でも、男の子はたまにそーいう食べ方してるの見るよね~」
「……! だよな! やっぱ幼馴染だわ
「あんたさっきボロクソ言ってなかったか……?」
「なんか今日の七生はえらく忙しないな……どうしたんだ?」
こんなツッコミばっかりするようなキャラじゃなかったと思うんだけど、この土日になにかあって翻意したのか。それとも熱でもあるのか。
「あんたがいつになくボケてるからその分こっちに回ってるんでしょうが」
「そりゃご苦労様で……」
「もっぺん踵落としてやろうか?」
「すみませんでした」
下がコンクリートだと死ぬ。
路上で柔道的なヤバさがある。
いやなんで土下座してる前提なんだろう。
「で、なにが好きなんだ?」
「……ああ、そんな話してたわね。中華ならだいたい好きだけど、パッと浮かぶのはエビチリとかじゃない?」
「エビチリか。エビチリで思い出したんだけどさ、昔エビチリ食ってるやつが耳元で―――」
―――“おまえが食ってるそれはカブトムシの幼虫だぞ”って言われ続けた結果吐いたっつー事件があったんだよ。
という愉快な話をぶち込もうとしたけど、これ女子に言って大丈夫なやつか……?
似た話に“塩タンディープキス事件”というのもあるけど、よく考えればこんなもんで笑う女の子は俺も嫌だ。
男子ならバカウケ必至の鉄板エピソードなんだけどな。
でも、この場は封印しておこう。鉄板は鉄板でもアチアチすぎて火傷しそうな気がする。
「―――いや、なんでもない。うまいよなエビチリ。俺も好きだわよ」
エビを食える人類の十割が好きなんじゃないか? 誤魔化すために口を衝いた言葉だが、そう思う気持ちも嘘ではない。
「ちょっと、言いかけておいて途中で止められると気になるじゃない」
「いや、ほんと、勘弁してください」
「あんた今日本気でおかしくない……?」
「みらいちゃんが変なのは普段通りだよ!」
ガチで心配そうなトーンで言われてしまった。
その後の妄言は知らない。聞こえない
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