第34話 それかサブリミナル効果だよ。

「そんな……それじゃあ私はどうすればいいんですか!?」


 なに言ってんだこいつ……。

 どうするもなにも、全てなかったことにして解散ではいけないのか。甘いのかもしれないが、そうすれば俺も大事にするつもりはないからお互い幸せになれると思うんだが。


「どうすればいいんですか!? 答えてくださいよルドガー!!」


 二回も言いやがった。やっぱこいつ結構元気なんじゃない?

 いや、でも跪いたままだし、声も震えているし。趣味だという仮面が土に汚れるのを気にかける余裕もないのなら、そうでもないのか? どっちだろうわかんねえ。

 このまま置いて帰っちゃ……流石にかわいそうだよなあ。かといってその問いに対する答えは用意できそうもないが。

 とりあえず、俺はゼクスのそばに近付いて投げ出された仮面を拾いあげる。

 そして同じように膝を着き、視線の高さを合わせた。といってもゼクスの顔は未だ地面に向けられているので、俺から見えるのは鮮やかな金色をした頭頂部だが。

 ん……? これはもしかして、染めたものじゃなくて地毛か?

 赤とか青が地毛の人は結構居るけど、金色は珍しいな。電波のは染色だし、何気にこの学園に来てから初めて見る気がする。


「とりあえず立てよ。膝が擦れるぜ。せっかくの綺麗な髪だって地面に着いちまって、今のなし」


 かける言葉を間違えた気がする。

 あざといとかたらしだとか、散々言われたのが刷り込まれてるんだろう。そっち方面に発言が引っ張られている。催眠術かよ。

 いや―――もしかしたら昨日頭を打った後遺症かもしれない。

 どちちにせよ明日宝条先生に診てもらおう。元々経過観察のために寄るつもりだったしな、ちょうどいい。

 俺はそう心に決め、ゼクスに先んじて立ち上がり手を差し伸べる。

 こんな夜更けにこんな場所だ、誰に見られる心配もないだろうけど、はたからすれば女の子に土下座させているみたいだから早く起きてほしい。


「くらい、くん……」


 ようやく俺の手を取ったゼクスを引っ張り上げる。

 そこでようやく、彼女の素顔が見えた。

 青い瞳が揺れたまま俺を見る。


「ほら、仮面」


 土をはたいてから、拾った仮面を差し出す。

 俺の手にあるそれを見たゼクスは唖然とした表情で、


「え―――仮面? な、なんで」


 そう呟いて、自身の顔に触れた。

 指先が確かめるように顔面を這い、そこにあるはずのものがないことを確認した瞬間、


「……き」


 き?


「きゃああっ! うそっ、なんで、わああああ!」


 ゼクスは悲鳴をあげて、後ろを向き膝を抱えて蹲った。


「お、おい、大丈夫か?」


 素顔を見られるのがそこまで嫌だったのだろうか、うろたえ方が尋常じゃない。

 まるで裸でも見られたかのような反応だ。裸といえば七生だが、バカ野郎そんなこと今思い出すな。


「か、仮面、仮面くださいっ」

「お、おう」


 後ろ手に伸ばされた指に、仮面を握らせる。

 俺からひったくるように仮面を受け取ったゼクスはそれを素早く装着し、今度は仮面の上から顔を押さえて落ち込んでいる。


「み、みみみ、見ましたか?」

「素顔のことなら、まあばっちり」


 真正面だから当然。

 視線も合ってたし、ごまかすのは無理があるだろうから正直に答えた。


「あー……よくわかんねえけど、そんな落ち込むなよ、き―――」


 ―――れいな顔してたぜ? なんてトチ狂った台詞を危うく口走るところだったが、崖っぷちで踏み留まる。 

 きから始まる言葉でなんかいい感じに誤魔化せるのあるかな。き、き、き……今日より明日なんじゃ、は種もみがないからダメだ。それに今の状況は明日より今日いまだよ。きしょい、きしょいのは俺だよバカ。きんたま、死んだほうがいいんじゃないか?


「……き、きっとそのうち良いことあるからさ、元気出せよ」


 よし、たぶんこれで繋がったと思いたい。日本語としてだいぶ苦しい気はするが。


「いいこと……? じゃあ……新聞部に入ってくれますか……?」


「えっ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る