第3話
5限目、音楽。箏の時間
「うちの学校には界隈では珍しい箏曲部があるのはみなさんご存知でしょうけど、もっと詳しいこと、たとえば爪の形で流派が分かれるってこと知ってます?そう。山田流と生田流ね。
今日は山田流の期待の新人と言われている草刈さんに手本を見せてもらいますからね。」
そう加藤先生に紹介されたすうっと背の高いポニーテール美人が手本のようなおじぎをして、教室はどよめく
やっぱり美人とか可愛いとか清楚だねとかいうざわめきの中に、全国大会とか金賞とかそういった言葉が混じっていて
すごい人なんだなあと他人事のように思う
頭に靄がかかったようだ
あれ、俺いつからこの授業に居たっけ
悪筆で有名な加藤先生の「山田流 爪 丸い」の文字
それになんで心が動くんだ
なにか
何か思い出せていないことがある
そうこうする間に演奏が始まる
俺はうまいとか下手とか聞いたところでわからないけど
誰もそんなことわからないくらいの序盤で
爪が折れた
ばちっという音がした
シーンとした教室が
一転、ざわめきが戻る
数拍おいて
彼女が泣き出した
「あらあこれは…珍しい。学校の備品ではないわね。私物を割っちゃったの。あらあらそんなに泣かないで、ねぇ、草刈さん」
慟哭
困惑する周囲
ますます靄がかかったような頭に
突然晴れ間がさした
「えーっと山田でいっか」
「いーでしょこの体」
「彼女はカタチと戦ってるんだ」
「彼女に、伝言」
屈託無く笑うあいつは
なんだよ、そういうことかよ
ばかにしやがって
くそー、今からすることを思い出して夜身悶えるんだろうなあ噂とかされんのかなあもうやるまえから嫌だよ
でも
そんなの爪のカタチくらい
どうでもいいことだ
加藤先生には保健室に連れて行きますと言って
割れた爪を握り込む彼女の手を一暼した後
その手を取って廊下へ
そして
走る
この細い肩に
腕に
なにが乗っかっていたのか全て知ってるわけじゃないけど
それでも
伝えないと
あいつの存在を
カタチにとらわれないことを
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