第2話
「ふー。えーっとどこまで話したっけ?あーそうそう丸と四角ね。
それぞれの性別にそれぞれの服があって靴があって振る舞いがあるんだ、でもそれって窮屈じゃないかい?みーんなカタチにばっかり気を取られて好きなことをすることや好きな服を着ることを恐れてるんだ。それが集団の中で強い意味を持つことが怖いんだよ。」
「なるほどね?」
爪が丸いか四角いか、ただそれだけの違いなのにそんな風に区別されるのか
彼のいう通り窮屈なことだとぼんやり思う
「ただそれだけの違い」という自分のセリフが心に妙な感触を残していく
「でもさ、見えないもんね」
「へ?」
「カタチしか見えないんだみーんな
そう全てカタチカタチカタチ
だって私たちはカタチしか見れないのだから
悲しみのカタチの涙
喜びのカタチは笑顔
丸い爪と
四角い爪
そしたらそこに
カタチに齟齬がある人が生まれました
悲しみのカタチの笑顔
喜びのカタチは涙
丸く生まれてくるはずだった四角
四角になりたい丸
それなら、世界でそんな風に生きている人がいるとするなら
ねぇ佐倉涼、君はどうする?
カタチしか見えない君は一体どうする?
彼女はカタチと、いや、カタチに反する中身と、その声を理解せず圧殺するような周囲と戦っているんだ」
カタチってなんだろう
何かを象徴しているようでもあり
即物的なようで抽象的で
曖昧なようで肝心なところははっきりしている
笑わない山田
ああこれは
真剣に答えないといけない。そう強く思った。
「月並みな、ありきたりな答えになるよ。でもさ、カタチしか見えなくても人間は想像する力を持ってるんだ。経験から想像することがきっと大事なことだと思う。
俺はカタチとの齟齬とか起こしたことないし、正直言ってよくわからない。でも、
たとえば小さい頃はわからなくても、大きくなってくると自分が他の人と違う人間なんだっていうのがだんだんとわかってくる。衝突とかも増えてくる。どうしてわかってもらえないのかって思うこともある。でも、そういう経験から「いつもよくわかる、わかりあえるとは限らない」ってことがわかってくるんじゃないかな。誰かにわかってもらえなかった経験って苦い傷になるかもしれないけど、それはきっと自分が当たり前のように思う何かに傷つく誰かのためになると思うんだ。「わかってもらえなかった俺」が「わかってもらえない誰か」を癒す手作りの優しさになるんだと思うよ。想像する、わからなくても拒まずただそこにいる。一緒にいる。それが俺の出来る事だ。」
山田が目をすうっと細めて「笑う」
そう。あんなにヘラヘラしていたくせに
初めて笑った。そう感じたなんて
やはり俺は月並みな人間だ。
「うん、君にしてよかった。」
は?
「晴れてテスト合格ってわけ。おめでとう!」
「俺のこと試してたのかよ!」
「そりゃあ試すでしょ普通。どこの馬の骨かは分かってるけど」
「分かってるんかい!」
「でもやっぱり自分で試してみないと。あの人にも怒られちゃうしね。いい加減な人をうちの娘にやったなって」
「いや結婚するんじゃないんだから、というか父親監修かよ…」
「監修というかなんというか、私はあの人の思念とオンナノコの思いで出来てるようなもんだからね。まぁさっき言った概念ってとこだよ。ぶっちゃけ性別とかないし。」
ん?今聞き捨てならないことを聞いたような
「ほらさっきの話は例え話。君を騙すとか真剣な思いを無下にするとかそういうわけじゃないから。」
と言いつつ今にも笑い出しそうな顔してるしさ…
「はいはい、君にはもう1つやってもらうことがある。言っただろ2つ使命があるって。これともう一つ。君に伝言がある。それを彼女に伝言して。要するに伝言ゲーム。10分で覚えて。なーんて急かす気はないけどねなぜなら」
「時間は止まってる!だろ?もういいから飽きたからそれ」
「最後まで言わせてよー!まっいーや。完璧に覚えてよね」
そういう彼に従っていくらかの文を覚える
伝言ゲームの橋渡し役には分かるようなわからないような文で
最終走者の手に渡った時に初めて意味を持つんだろうと思った。
覚えきったところで疑問が生まれる。どうして俺に伝言なんてしち面倒臭いことをするんだろうか、時間を止めて馬の骨に伝言させるなんて大味なやり方をするより自分で伝えた方がいいのでは?というか
「それで、そのセリフ誰にいうんだよ?」
そう山田に聞くのと同時に
俺は教室にいた
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