第9話

この南砺市は散居村という少々特殊な町の作りになっている。

 通常の日本の都市は密集型になっている。これは国土の大半が山であり平野地が少ないためである。


 勿論、密集型になった理由はこれだけではない。島国であること、都市、首都機能が東京に集中していること、江戸時代に藩というものが存在してその地域特有の政治をしていたこと。などと様々な要因はある。


 ともあれ日本では、家の隣に家がある。また何か建物がある。それが一般的な認識であろう。

 しかし南砺市は少々違う。


 家の隣は田んぼか森林か。そういった土地が見受けられる。家と家との距離がやけに離れている。

 その異常性は展望台からみれば一発だろう。それぞれの家が、点と点になって、それでも線にはならないようにバラバラになって存在をしている。

 夜に白く輝く家の光と、闇に覚えた黒色の田んぼ。それが本物の星に見える。


 さらに、不気味なのは南砺の家の隣には謎の雑木林があるということ。それは田んぼ一枚あるかないかの小さな森。


 だから私が隣の家に行こうとしたら、雑木林を抜けて田んぼをぬけてようやくつく。そんな感じ。徒歩にして2分ぐらいかかる。まだ歩幅の小さい小学生からしてみれば、隣の家に行くだけで大冒険だ。


 どうして南砺はこのような町の作りになっているのか。それは庄川という川が原因である。


 南砺には庄川という川が流れている。

 この川は江戸時代幾度なく氾濫をした。そして家が流された。町が壊滅状態になった。

 そこで考える。


 周囲よりも土地が盛り上がっているところに家を作ろう。

 当時の南砺は、ブツブツと湿疹のように小さく盛り上がっている土地が複数あった。そこに家を建てた。

 また農家にとってみれば、家の周囲に田んぼがあるというのは非常に利便性がいい。だから周囲を田んぼにした。

 これが今日まで続く散居村の始まりだと言われている。


 しかし散居村にはデメリットが存在する。特にそれが砺波地方では大きな問題であった。


 南砺などでは冬になると大雪と共に厳しい寒波が現れる。

 通常なら隣の家があるということで、いくらかの冷風を防ぐことができた。しかし散居村というのは隣に家などなく風ブロックするものなどない。


 そこで考えたのは家の周囲に森を作る。その森に寒波を防いでもらう。そのような作戦だった。


 その風を防ぐために出来た森のことをカイニョと周辺の人は言う。

 このカイニョは南砺にとって非常に重要なものとなる。


「娘をあげても高あげるな」


 と地元の人はよく言う。

 高というのはカイニョの土地のこと。


「お前さんよりも高の方が大事だ」


 と昔祖父が言っていた。さすがにそれは冗談だと思いたい。そうであってほしい。

 とにかく砺波地方の人にしたらカイニョという小さな森が重要なのである。彼らにしてみればカイニョは一つの国。


 そのカイニョで家柄や人柄などが分かるとまで言われている。

 カイニョが広かったら良い家柄だし、それがしっかり手入れされていればいい人柄。


 私の家のカイニョはどうかと言えば、実に立派なものである。星まで延びそうな杉の木が、他の家のカイニョよりも長く伸びている。


 これも、祖先が頑張った証しと私の祖父。

 私はそれを見上げる。首が痛くなる。


 こんなカイニョを作るのに一体どれほどの努力を祖先はしたのだろうか。それに比べてみれば私などちっぽけなものである。ただこうやって見上げることしかできなかった。

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