第6話
「まず、フォームドミルクとスチームミルクというものがある」
と、お客様に商品を届けた後に諏訪さんが説明始める。
「分かるけ?」
首を振る。
私は珈琲は好きだ。大好きで、大好きでしょうがない。かと言って、どの豆がどうとかどの珈琲がどうとかそこまでは考えたことない。
ましてやミルクの種類など。
急に自分が恥ずかしくなる。
こんな珈琲の知識が乏しい……ましてやお客さんとコミュニケーションが取れない奴が果たして喫茶店に働いていいのか。
おこがましい。
それすらも思う。
「暖かいミルクをフォームドミルク、フワフワにしたミルクがフォームドミルク。エスプレッソは知っているけ?」
「名前だけなら」
「一般的に豆に圧力をかけて抽出したものがエスプレッソ。豆1グラムあたりに抽出されるのは当然エスプレッソの方が少なかったりする。だからそれはデミタスカップという小さいカップで飲むのが一般的ちゃ」
と私の前に小さなカップを置いた。
「このスチームドミルクとフォームドミルクを半分に入れたのがカプチーノ。スチームドミルクが半分よりも多いのがカフェラテ。フラットホワイトはコーヒーとスチームドミルクだけの配合。つまりふわふわしていないもの。どう? わかったけ?」
「はい……」
というのは嘘。まだ少し頭が混乱している。その様子はすぐに諏訪さんに伝わったようで彼女はため息をついた。
「まずは基本的な接客を覚える。商品知識を蓄えるところからか」
「は、はい……」
「分かった。明日までにこれを全部覚えてこられ」
そして彼女は棚にあるファイルからノートを取り出す。それを渡す。
ページをめくる。驚くことに、手書きで豆の原産地やメニューの作り方が書いてある。
それがびっしり丸々ノート一冊にまとめられていた。
かなり几帳面だ。
そしてそのノートは軽く私が引っ張っただけでもとれそうである。もうボロボロになっていた。
これを全部、それも明日までとは本気でいっていることだろうか。
その情報量は、半年間授業した日本史のやつよりも多い。テスト一夜漬けだとしたら諦めだろう。
「……」
私は黙ってノートを見つめる。
思う。
明日までなんて無理だろうと。
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