好物

 イタドリが好きです。


 某漫画の主人公じゃないです。美味しい山菜のことです。当方山生まれの山育ちで、春になると山に分け入ってその辺の山菜を採って食べてました。とりわけ好きだったのがイタドリです。

 美味しいんですよ。メンマ的な食感といかにも山菜な素朴な味わい。ごま油で炒めてウェイパーぶち込んだらあら不思議、さっきまでそこにあった酒が跡形もなく消えています。相変わらずおつまみに全振りした料理スキルです。


 久々に食べたくなって実家に連絡を取り、下ごしらえ済みのやつを送ってもらいました。で、武士に振る舞ってみた。


「米が無くなる!」


 無くなってました。なんでもそうだけど、美味しくもぐもぐ食べてもらえると嬉しいなぁ。

 イタドリは実はなかなか厄介な植物で、イギリスでは土地に生えると一気に価格が暴落すると言われているらしいです。駆除しても駆除しても生えてくる。

 じゃあ食っちまうかと吹っ切れる所に、ご先祖様との血の繋がりを感じます。なお、アク抜きしないと本気で不味いのでそこは頑張らねばならない。


「こと食となれば、人は目の色が変わるものよのう」


 たっぷりとイタドリを堪能した武士が、食後の茶を飲みながら言う。


「某は鰻の蒲焼きが好きだったぞ。滅多には食べれんかったが、やはり暫くぶりの鰻は舌が幸せになったものだ」


 ほーん。なかなか肥えた舌だねー。


「……」


 期待した目でこっち見んな。


「……」


 背筋伸ばしてもだめだよ、買わないよ。鰻高いもん。


「ぬっ!」


 あーもう分かった分かった、少しずつ近づいてくんな! 蒲焼きのタレ買ってきてやったから、それで我慢しろ!


「別物ではないかー! 大家殿は、ばななが食べたいと言って皮だけ渡されたら悲しい気持ちにならんのか!」


 たとえがおかしい! たとえがおかしい!




 翌日、約束通り武士に蒲焼きのタレを買ってきてやりました。ぶすくれた顔の奴は渋々ご飯にかけていましたが、一口食べるや否やパッと顔を上げました。思った百倍ぐらい美味しかったようです。そのあとタレで卵かけご飯してました。


「鰻の蒲焼きは、よもや八割がタレの功績では……?」


 そんなことない! そんなことないよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る